第17話 オリエンテーションと部活動

四月十日

新一年生を含めた全校生徒で始業式が行われた。

今年は新任の先生も退任の先生も居なく、お約束のような校長先生の長話もなかった為、意外とあっさりと終わった。

その後、一年生から順に各教室へ移動し課題提出やオリエンテーションが執り行われる。



一年A組

ザワザワと落ち着かない様子。中学校からの友達と、中には今日初めて会う人と話しかけてる人もいる。

穂海は運悪く、中学校の同級生や同い年の村民とは違うクラスになってしまった。


「うーむ、まさか私だけ違うクラスとは……。むしろすごい運だねぇ。」


ガラガラガラと、勢いよくドアを開け二人の先生が現れた。


「早く席に着いて下さい。オリエンテーションを始めますよ。」


ザワザワとしていた教室が次第に落ち着きを取り戻してきた。


「はい、ではまず先生達の自己紹介をします。私は、橋下 崇。この一年A組の担任で科目は主に化学を教えています。で、こちらの爽やかイケメンが……」


苦笑いしながらもう一人の先生が自己紹介を続ける。


「橋下先生、からかうのは辞めてくださいよ。はい、爽やかイケメンではないですがこのクラスの副担任の柏木 佑介です。科目は数学を教えています。歳は二十九なのでまだ皆さんと少しは話しやすいと思います。サッカー部の顧問をしているので気になる人は気軽に見学に来てくださいね。」

「残念ながら基本的に柏木先生は忙しいので気になる女子は早めに声を掛けるように。」


二人は仲がいいのか、ただいじられているのか柏木先生の苦笑いが途切れることは無かった。


「えー、今日の予定だが、この後みんなに自己紹介を一人一分程度してもらう。その後、一年間の学校のスケジュール表を配り、クラスで各委員を選ぶ。これは決まるまで帰れないからお互いに空気を読むように。後はそうだな、そのうち先輩が部活の勧誘に来るから、それを聞いて興味がある部に見学に行くくらいだな。強制はしないが何かしらのクラブ活動はして欲しいと思う。」

「ではこちらのプリントを後ろに回してください。」



その頃、二年A組では編入生の紹介をしていた。


「三好さん、前に来て自己紹介をしてくれる?」


自己紹介を促したのはこのクラスの副担任、林 麗子。通常副担任がつくのは一年生までなのだが、雪乃の身体のことを考えて特別に副担任が付けられることになった。


「三好 雪乃です。半年前までは東京に住んでいました。今までは病気でろくに学校も行けなくて分からないことばかりなので、色々と教えて貰えると嬉しいです。」

「はい、ありがとうございます。三好さんは所謂不治の病で、その原因もわかっていない状態です。感染する恐れがないことと、症状が回復に向かっていることは確実なのでみんなは心配する必要はありません。」

「三好は高校に通ったことがないから、誰かにこの学校のこと教えて貰ってくれ。それを踏まえて今から委員決めるぞ。」


学級委員長、副委員長は被ることがなかった為、立候補者がそのまま着任することになった。以降、委員会を決める話し合いは学級委員長の矢野 友樹が司会を、副委員長の上杉 三葉が書記をすることとなった。


「では、風紀委員に立候補したい方いますか?」


全員が何かしらの委員会に入らなくちゃ行けない訳でもないので、みんな誰かが行くだろうとなかなか話が進まないのがお約束だ。


「誰もやらないなら俺がやろうか?」

「朝井くんがやるなら、私も風紀委員やろうかな?」


朝井 颯太と水瀬 瑞姫が立候補することで風紀委員二名は決まった。


「それじゃぁ、風紀委員は朝井と水瀬で決まりだな。次は、美化委員誰かいますか?」


その後は特に詰まることなく美化委員、体育委員、保健委員が決まり残すところ図書委員だけとなった。


「では最後に、図書委員。 」

「はい!わたし、図書委員やってみたいです!」


図書委員をやってみたいと、ずっと思っていた雪乃は意を決して手を挙げた。


(あれ、これってもしかして浮いちゃってる……?)


そんな雪乃の心配を気にしてか矢野は淡々と進行を続ける。


「あと一人、誰か居ませんか?」

「あのー、私やります。」


恐る恐る手を挙げたのは、雪乃の前に座っている宮地 桃百。大人しそうな子で仲良くなれそうな気がした。


「宮地さん、わたし分からないこと多いから迷惑かけちゃうかもだけど、これからよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。図書委員は週に一回くらいしか仕事ないけど頑張ろうね。」


「橘先生、各委員決まりました。」

「よろしい。それじゃあ中川と川上、今日の放課後に三好に校内を案内してやってくれ。お前らが三好と一番関わっていくことになるだろうしな。」


各委員が決まったあと、春休みの課題を提出し解散となった。


「部活勧誘に行く人は各部室に集合してから決められた時間に一年生のクラスに行くように。春休みの課題が終わってない人は職員室にいるので私が橘先生に渡しに来てください。それでは今日は解散。」


「三好さん。私、保健委員になった川上 美咲。んでこっちが、」

「中川 怜だ、よろしく。」

「三好 雪乃です。よろしくお願いします。」

「橘先生に言われたし、学校案内するね!行ってみたいところとか気になるところってある?」

「うーん、わたし図書委員になったから図書室の場所知りたい……かな。」

「おっけー、じゃあ図書室ね。」


二年生のクラスがある三階から東階段を登った先に図書室はある。

校舎はL字型になっており、西側に通常授業用の教室、南側は実験室などの特殊教室に加え一部、文化部の部室もある。職員室や視聴覚室といった広めの部屋はL字型のちょうど角にある。


「校舎のこっち側に実験室とかの教室があるから気をつけてね。それで四階の一番端が図書室だよ。」

「わりぃ、俺ちょっと部室に寄って行くから先図書室入っててくれ。」

「はいはーい」

「二人は同じ部活に入ってるの?」

「うん、そうだよ。」

「仲がいいんだね。」

「まぁ、幼馴染みだからかなぁ。別に悪いとはおもはないけど、昔からこうだからこれが当たり前みたいな?」

「幼馴染みかぁ、なんだか羨ましいな。」

「そう?私にはあんまり分からないな。三好さんは……って、名前で呼んでもいい?」

「うん、いいよ。わたしも美咲ちゃんって呼んでいい?」

「お互い名前で呼び合お、もう友達なんだからさ。」

「お友達!うん、お友達だね!わたしたち」

「そう言えばさ、雪乃って入る部活とかって決めてる?決めてないなら私達の部活に入らない?」

「お待たせ……って、図書室はもういいのか?」


部室での用を済ませた中川が図書室前で立っている二人に声をかけてきた。


「あぁ、まだまだ。今、雪乃を部活に誘ってたの。」

「まだ図書室入ってなかったのか。部活の勧誘もいいけど、先に案内をしてからだ。」


図書室、保健室、各教科ごとの教室を案内してもらった雪乃は、再び図書室前に戻って来ていた。


「部室って、図書室の前だったんだ。」

「うちの部室、結構広い方なんだよ。」

「家庭文芸部……?」

「元はね、家庭科部と文芸部だったんだけど、生徒数が減ってきて部を存続させるために二つをくっ付けたのよ。」

「部活内容は文芸メインのたまに料理とかそういう家庭科系だな。先輩が卒業して今は三人しかいなくて困っていたんだ。」

「そうそう、だから雪乃が入ってくれたら嬉しいなーって。」


部室に入ると確かに広い。

しかし、部屋の端が不自然に囲われている。

雪乃が不思議に思ったのを察した中川が教えてくれた。


「あそこは仮眠室だな、部長起こしてくるわ。文成せんぱーい、起きてください。部活見学者連れてきましたよ。」


男は眠そうに目をこすりながら中川に引っ張られて出てきた。寝不足なのか目の下にクマができていて、制服も少し乱れている。


「すまない、最近寝れてなくてね。久々の学校でまだ生活リズムが戻っていないんだ。」

「い、いえ。お気遣いなく……。なんなら後日、出直してきます。」

「それには及ばない。」


机の上に置かれていた黒縁の眼鏡をかけ、話を進めた。


「さて、どこまでこの部活のことを教えた?」

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