スポーツハッキングの友情は必要か

ちびまるフォイ

人間としての優秀

ハッキングがスポーツとして認められたのは最近のことだった。

それでも学内では人気の部活として地位を確立していた。


パソコン部というような陰キャのふきだまりではなく

ハッキングというカッコよさから文化系の人たちがこぞって押し寄せた。


「お……おい……」


そんな中、ハッキング部にはひとりの新人が入ってきたことで状況は一変する。


「終わりました」

「課題達成、3分です」


「うそだろ……早すぎるだろ……」


「僕が早すぎるんじゃなくて、

 みなさんがこのシステムの脆弱性を把握するまでが遅すぎるんです」


「……」


スポーツハッキングでは指定された課題に対してハッキング行為を行い、

さまざまな障壁に守られたシステムから答えを引き出せばクリア。


単純なコード生成速度は努力やツールで補えるものの、

システムを見たときにシステムの"スキ"を判断するのはセンスとしか言いようがない。


「まあ、期待の新人が入ってきたわけだし、

 みんな今年の大会は今度こそ全国にいけるんじゃないか」


「……とりあえず僕は帰ります」


「あ、ちょっと新人歓迎会は!?」


「それハッキングへの効果があるんですか」


「あるよ! お互いの連帯感がますだろ!」


「連帯感を訴えるなら僕よりひとりでも出来る人がいるべきでしょ」


新人はさっさと帰ってしまった。

残された3年生はただただ不安そうにしていた。


「部長、あいつどうするんだよ」

「そりゃたしかに能力は認めるけどさ……」

「ハッキングはチームプレイだろ。あんなの入れても……」


「お前ら、全国に行きたくないのか!?

 せっかく全国……いや全世界クラスの逸材が来てくれたんだぞ!?」


「……でもあいつ、見るからに協調性ないじゃん」


「それはこれから仲を深めていけばいいじゃん!」


ハッキング部はのちに「修羅」とまで呼ばれる新人と

大会に向けてのチームハッキングが行われた。


「先輩。遅いです」


「わかってるよ! 今開けるから!!」

「まだですか」

「やってるって!!」


「……もういいです。僕がやります。終わりました」


「っ……!」


「先輩、1年なにしてたんですか。遊んでたんですか?」


「お前いいかげんにしろよ!!!」


3年生とつかみ合いのケンカを部長が必死に仲裁する。


「部長、なんで止めるんだよ!」

「喧嘩してどうこうなるものじゃないだろ」


「そうですね。原因は先輩のポンコツぷりですし」


「まだ言うか!!」

「やめろって!」


「実際、僕がやったほうが早いじゃないですか。

 大会は4人じゃないと参加できないからって

 無理に4人でハッキングする必要ないですよ」


「はあ?」


「みなさんは打っているフリでもしていればいい。

 ハッキング作業は僕だけでやります。そのほうが早いです」


「ふざけんな!!」


ハッキング大会では必ず4人チームで実施される。

誰かが障壁を開け、別の人がパスワードを解析するなど分担が必要になる。


それが通例。


ただし、あまりに新人が優れているために

"道"を作るのが遅れたり、答えにたどり着いても"ドア"が開いてなかったりで

連携というよりも足かせという形にしか寄与していなかった。


「お前もあんまり好戦的なことを言うんじゃない。

 大会は明日なんだ。変にチームでギクシャクしてもしょうがないだろう」


「常に最高効率を求めるのがハッキングじゃないんですか」


「その効率が落ちるかもって話なんだよ」

「僕ひとりでやるよりは落ちてます」

「あのな……」


「僕、努力とか根性とか仲間とか信頼とか苦手なんです。

 合理的なものが好きです。それだけです。僕は勝ちたいです。

 負けてお互い慰め合いながら努力を称えるなんてみっともないです」


新人は帰り支度を整えてさっさと帰ってしまった。

去り際に、


「できないのなら、せめて邪魔だけはしないことが相手への気遣いなんじゃないですか」


とだけ言った。

大会当日、エントリーした手前4人で出場となった。


ハッキング大会も他のスポーツ系の部活と同様のトーナメント方式。

各高校のハッキング部とハッキング能力の差を決める。


「僕だけでいいですからね」


念押しするように新人はチームメイトの先輩に釘を刺した。


『それではハッキングを始めてください!』


異様な光景だった。

新人ひとりがパソコンに向かって指を踊らせているのに対し

チームメイトの2人は腕を組んで静観。

部長は遅れながらもコーディングをしている。


それでも課題とされているサイトを次々に看破していく。


「よしこれで……」


ゴールが見えたそのときだった。


『 ERROR!!! 』


「えっ!?」


新人の画面には赤い警告画面が表示された。


「おかしい。こんなプログラムは発生しないはず……」


課題にはトラップとしていくつかのウイルスが仕込まれている。

それもことごとく回避していた新人だが身に覚えのない警告に面食らう。


「これはいったい……」


「バカ! 相手チームからの妨害だよ!」


隣で静観していたはずの3年生はすぐさま対抗をはじめた。


「妨害って。この課題をクリアするのがハッキングでしょう」


「ただし相手より早く、だ!」


直線距離を高速で走ることができても、

道に倒木を置かれることを想定していなければ大いに遅れてしまう。


「ファイルプロテクトはこっちで処理する! お前はさっさと本丸を暴け!」


「でも……」


「お前がこの中で一番はやいんだよ!!」


3年生は相手から送られるウイルスを必死に迎撃する。

部長が事前に準備していた対策によりそれが可能だった。


「見つけました!」


新人がついに課題の答えをハッキングして獲得した。

その瞬間に勝利が決まった。


大会が終わると、新人はチームメイトのところにやってきた。


「……ありがとうございました。今回は僕ひとりではできませんでした」


「まったくだよ。鍵を開けるのが上手いだけじゃダメなんだよ」

「ほんと。お前、相手からの妨害を最初っから考慮してなかったなんてな」


「助かりました」


部長は新人の頭をわしわしと手でなでた。


「なんだ素直じゃないか」


「変に意地を張るのは合理的じゃないんで」


「ハハハ。でもよかった。これで仲間の大切さがわかっただろう」


「はい。自分ひとりじゃダメだってことがわかりました」


「それじゃ、今度こそ親睦を深めるために新人会と勝利のうちあげだーー!!」


部長が腕を振り上げると、新人はぴたと動きをとめた。



「あ、僕はこれから大切な仲間となるAIを作るので、みなさんだけでどうぞ」

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