第30話 安アパートの隣人


「おかず……、作り過ぎちゃって……」


「……」


「なんてことはないでしょうか……」


「今週もう三回目だぞ」


「お金がないのォ……、お願いなにか恵んでください……」


「二十歳を過ぎた女がタッパー抱えて隣の部屋に突撃かますとか恥ずかしくねえの」


「今更あなたに見せて恥ずかしい姿があるとでも?」


「開きなおるなよ、めんどくせぇな」


「泥酔して扉の前で潰れて居たり、洗濯ものがそちらへ全部飛ばされたり、寝ぼけてパジャマ姿で出たときに出くわしたり、階段ですっころんで開脚丸見えしたり。ふ、数えるとキリがないってものさ……」


「……肉じゃがしかねえぞ」


「ありがとうございますだァ! ありがとうございますだァ!!」


「貸せ、タッパー」


「わーい!! 幸せとは料理好きの隣人が居ることで御座いますなァ!!」


「料理好き?」


「え? 料理好きだからつい二人前作っちゃうんでしょ?」


「……ああ、……ああ、うん、そう」


「違うの?」


「合っているよ」

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