貯蔵量 13/1000


 肌色だと10増えるらしい。幸先の良いスタートを切った。肌色の荷物から線がたくさん書かれた紙を見つけたのは良い。しかし、現在地はどこだろう。十字路から今までの移動した通路を……ここかな?


『地図情報を読み込みました。最短経路及び拠点の位置を表示します。』


 赤い点が去った方向に肌色の拠点があるらしい。通路には、いくつもの罠や残骸があった。どうやら肌色たちは拠点から放射状に移動範囲を伸ばしているようだ。よほど近づいて欲しくないのかな。

 進むにつれ、赤い点以外の様々な的が現れた。天井から壁から空間から。強くはないけれど単純に数が多く、手間取っているモノや押し切られているモノもいた。回収回収。





 貯蔵量 148/1000


 結構たまった。不思議な事に集めれば集める程、頭の中がクリアになり深く考えられるようになっていった。成長しているのかな。

 数度被検体にも遭遇したが、以前感じたような仲間意識は無くなっていた。回収回収。

 今回の被検体は、肌色のように穴を開閉している。右腕にねじ切られていく被検体を見ながら、攻撃の予備動作なのだろうかなどと考えているとメッセージが表示された。


『規定数に達しました。敵性体への擬態を行います。』


 部屋以外でも始まるんだと思った。そも擬態してどうするのだろう。




 肌色の皮が右腕を覆っていく。爪からフォークを出せるみたい。左腕は伸びた。砲身だけだった腕が5本指の肌色のような腕になっていく。掌から砲撃は可能らしい。【状態確認】画面のアウトラインが動いていた。


 足のグリーブがタイツの内側に展開されていく。関節の動きを阻害しないよう何層にも分けて脚部を覆うみたい。

 頭部の変化は複数ある。口と耳が追加された。肌色たちが開閉していたソレを何度か動かしてみる。特に攻撃の予備動作でもない? 不思議な部分。

 耳は勝手に音を拾うらしい。さっきからノイズが酷い。肌色たちは、こんなノイズに耐えている? 見直さなければ。


 歩いてみる。バランスが取りやすい。指先が5つに分かれることで支えやすくなっているようだ。移動が速くなった。擬態の方が、全体的に機能が上なんて。

 さて、どちらに進もうかな。赤い点はさらに離れた所に移動したみたい。


 赤い点の方向からダダダという連続音が聞こえてくる。

 近づいていくと肌色と大きな的が戦っていた。と言っても肌色はじりじりと下がる一方で攻撃していない? あ、黒い筒が光ってる。攻撃しても弾かれてるんだ。


 肌色がこちらを見て目を見開いている。すぐに大きな的が攻撃し始め、目を逸らした。


「こんな所で、何してる! 下がれ!」


 何だろう、この音は。今まで聞こえなかったが、肌色のくちの開閉はこんな音を発していたのかな。口を開けてみるが、「あー、うあー。」としか発音できない。何かが違う?


 少しずつ肌色に近づき、肌色の横を通り過ぎ大きな的と対峙する。うん、割れる。


「おい、あぶねぇぞ! 下がれってん——」


 チラっと見た肌色がまた目を見開いた。あぁ、大きな的が攻撃してきたみたい。

 左腕を上げたがガンッと重い音を立てただけで損傷無し。


「――何だ? まさか人じゃねぇのか?」

「あうあ。」


 うーん、やっぱり発声が変。大きな的が今度は右側から攻撃してきた。右腕で防――そうだった、ねじ切っちゃうんだった。

 大きな的がギャアギャア騒いでいる。胴体の左側をねじ切られたことで距離を取って、こちらを威嚇し始めた。貯蔵量が150になった。

 左腕を大きな的に向けたところで後ろからまた話しかけられた。


「あんた頼む、ソイツを倒してくれ!」

「う?」


 攻撃か、と肌色を見たけれど攻撃じゃないみたい。変なの。大きな的は左腕の射撃で打ち抜き、右腕にねじ切らせておいた。貯蔵量は151。1ずつ増えるのかな。

 動かなかった肌色が距離を少し詰めてきた。左腕を向けると、両腕を頭部の横に上げ止まった。威嚇?


「おいおい、撃つなよ? あんた名前は?」

「……。」

「あー、すまん。俺はクーパーだ。助けてくれたんだよな? ありがとうよ。」

「くぱぁ。」

「くぱぁじゃねぇよ、だ。」

「クッパ。」

「はぁ、クッパでも良いけどよ。俺はホームに戻るが、お前さんはどうする?」


 クーパーの示す方向は、赤い点の方角だった。歩き出した私を見て、慌ててついてきたクーパーをなぜねじ切らなかったかは分からない。何となく……得られる情報があるかもしれない、と思ったのかな。


「お前さん強いよな。銃が弾かれてもうだめかと思ってたぜ。その銃と爪? は、どうなってんだ?」


 左腕をクーパーに向ける。また両手を上げた。「わかった、わかったよ。静かにしてる。」と言う彼の後ろ——壁から生えた的へ左腕をズラし、生み落ちる前に撃ち抜いた。

 【状態確認】の左腕は残弾1。


「ひゅぅ。やっぱスゲーな。」

「ふー、ふー。」

「何だ? 口笛できねぇのか。」


 口を真似てみたができない。クーパーは口笛で何曲か吹いていた。嫌いじゃない。移動中、練習してみよう。

 クーパーの口は、突き出したりすぼめたりしていた。何度か形を変えていると、ぴゅっ、と音が鳴った。


「お、鳴ったじゃねぇか。あとは慣れだな。」

「ふー。」

「ハハハ。練習あるのみだな。」 


 むぅ、鳴った時の形を覚えさせておこう。いつの間にかクーパーが横に並んでいる。悪い気はしない。

 それから数回動く的に遭遇したが、右腕だけで問題なかった。貯蔵量159。


 赤い点が少し大きく見えてきたところでクーパーが走り出し、数歩離れ振り返った。


「見えてきたぜ。あれがホームだ。」

「ほむ。」

「ホーム、だ。ホーム。覚えとけ。」

「ほむ。」


 笑顔のクーパーが何か言っているが、赤い点は


 結。

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