第15話 「友達と飲むビールは美味い」
「やれやれ……。それにしても、僕は本当に鈍ったなぁ……」
槍が刺さったままの、左肩の傷を≪スーパー紳士≫の上から右手で押さえつつ、ひとりごちながら、壁にもたれてズルズルと座り込んだ。
出血は酷く、肩がついた壁が真っ赤になっている。左手はピクリとも動かせない。
隣では≪バヤール≫が、心配でもしてくれているのだろうか。ブルンブルンとエンジンを唸らせていた。
「あぁ、そういえばお前にはお礼を言わなきゃな。……ありがとうな、≪バヤール≫。お前がいなかったら、もう少し苦戦してたよ」
苦戦どころか、最悪殺されていた可能性もあるが。
≪バヤール≫のエンジンの唸りが、ドルルルンッと強くなる。喜んでいるのだろうか?
可愛い奴だ。
「しっかし……」
……ん? 燃えてる?
ちょっと待て。こんな店の中で火が燃えていたら。
マズい、と思った時にはもう遅く。
店内のスプリンクラーが一斉に作動した。
「うわっ、冷たい冷たい! ていうか、傷口に染みて超痛い!」
槍が突き刺さったままの体では、碌に身動きがとれない。
水は容赦なく、壁や床、ヒキガエルの死体、そして僕と≪バヤール≫に降りかかってくる。
ジュウジュウと煙を立てて消えていく炎だが、スプリンクラーの勢いは止まらない。
通常、油の火災は水では消えないらしいが、この蛙の油の火は消えている。もしかしたらこの世には存在しない物質なのかもしれない。
いや、そんなことより。
「ぶわっ、ちょっ、誰かなんとかしてくれー!」
声をあげた所で、誰も助けてはくれない。僕は動けないし、頼みの≪バヤール≫はスクーターだし。
しかし、そんな無意味な筈の叫びに。
答える者がいた。
「勿論だとも! 我が友よ!」
ズパパパンッと。重く、それでいて鋭利な切断音が聞こえた。
「……は?」
次の瞬間。
コンビニの天井と、壁が。バラバラに、細かく、執拗なまでに、斬り刻まれた。
ガラガラと、音を立てて崩れ落ちてくる天井と壁の破片。
ヒウン、ヒウンと。糸の舞う音が聞こえる。
「げほっ、ごほっ」
粉塵に咳込みながらそれでも前を見る。
もはや跡形もないコンビニの、入り口があった場所に。一人の男が立っている。
「このヨハネス・フォン・ヴァイセンベルク! 友のためなら、たとえ火の中水の中! 夢の中であろうと颯爽登場! あぁ! こんな世界で再び巡り合う、我らは今! 美しい!」
クルッ、シュターン! クルッ、シュターン! と謎のポーズを決めながら、こちらへ近づいてくる変態。
外見だけは、整っている――と言っていいくらいの金髪碧眼の
僕はコイツに覚えがある。忘れようったって中々忘れられないだろう。
「ヨハン!? なんでこんな所にいる!?」
「それは勿論! 君に会いに来たからさ! 実に久しぶりだね、我が友よ!」
前髪をかき上げながら、キラキラと謎の光を放つ――ように見えるほどの笑顔をこちらにむけるヨハン、ヨハネス・フォン・ヴァイセンベルクは僕の記憶にある姿となんら変わっていないように見えた。
コイツと会うのはもう数年ぶりになるというのに、相変わらず僕を友と呼ぶのだな。
「……お前もこの世界に来てたんだな。というか、悩まし気なポーズで迫ってくるのはやめろ」
「ふっ。友の頼みとあれば仕方ない」
間近に来て、ようやくポージングをやめたヨハンは、それでも溢れんばかりの笑顔のままだ。
「いやぁ、友との再会とは実に良いものだ! これが任務でなければ、ビールを飲みたいところだよ!」
「……任務? ……まさか、
「その通りだとも、我が友よ!」
大日本皇国内において、最も有名な秘密組織であり、最も強力な実働部隊。十人の、化け物みたいな連中の総称だ。
このヨハンは、その
「まさか、全員こっちに来てるんじゃないだろうな? だったらすぐにでも、こんな悪夢、ぶち壊してそうなもんだが」
「いや、私が直接あったのは【
「放っとけ。けど、助かる」
あの変態医師の薬なら、まぁ、効き目は確かだろう。
いやはや、しかし。
「……随分とまぁ、面白そうなことになってるんだな」
こんな世界に来てまで。
元いた組織の名前を聞くことになるとはね。
*****
?????のナイトメア☆ガゼット
第15回 『■■■』
今週のナイトメア☆ガゼットは大人の事情により休刊です。
ちょっと! 休刊ってどういうことよ!? ……上からの圧力!? ジャーナリズムはそんなものに負けはしないわ!
見てなさい! こんな面白そうなネタ、いつか絶対記事にしてやるんだから!
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