放課後

放課後東雲に言われた通り俺と片岡はN-2教室に向かった、このN-2教室は基本選択授業の際に使用される教室の一つだが放課後はただの空き教室になるため生徒が自習などに使っていいようになっている。校内には自習室というものはあるにはあるのだが、飲食禁止や私語厳禁などの決まりがあるためN-2教室のような空き教室を使う生徒も多い。


木製の横スライド式のドアをガラララと開けると中にはメガネに黒ショートカットの女子生徒、東雲と少し茶色がかったロングヘアーの女子生徒、四十川がすでに勉強を始めていた。


「しのりん達もう始めてんの?早いねぇ」


「あんたらが遅いのよ、何してたの?」


片岡は決まりが悪そうに頭をかき


「まぁ、色々ねぇ男には戦わなきゃいけない時もあるのさ」


とよく分からない言い逃れをする。実際のところは片岡が授業を寝てサボり続けている事が現代文の教科担任の告発により担任にの耳に入り、約15分程度の説教をされていたのだ。説教をされた直後は死人のような顔をしていたくせにもう元気になっている、なんとも不思議なやつだ。


「まぁいいか、とりあえず始めるわよ」


俺と片岡は席に着き勉強会は始まった。東雲と四十川は俺たちが始まる前から始めていた物理の勉強を続けているので俺は片岡と数学の勉強をすることにした。始めの基本問題のうちは昨日の居残りの成果もあり片岡はスラスラと問題を解いていた、しかしその手のスピードはだんだんと落ちていき15分しない内に動かなくなってしまっていた。


「何これ、頂点?範囲?」


「この問題はさっき基本問題でやった平方完成を使ってだな...」


片岡は別に理解力がないわけじゃない、公式や解法も教えて同じような問題を数回やらせれば解けるようになるし記憶力もいい、ただやる気がないのだ。


「あぁーなるほど、こうすれば簡単に解けるのか」


「そうだ、判別式は解の公式の√(ルート)の中身を覚えれてれば忘れることもない」


「た、確かに」


いつもの調子で片岡に問題の解説などを教えていると俺の隣に座っていた四十川が不意に笑った。俺たちが四十川の方を見ると申し訳なさそうに


「す、すみません!」


といい、言葉をつなげた。


「なんだか先生と生徒みたいで、可笑しくて」


「ゆうー俺、遠回しにバカって言われてない?」


「的をいてるんじゃないか」


「ねぇ、ひどくない?」


「い!いや!違くて!」


四十川は自分が思ったよりも声が出たことに驚いたのか小さくすみませんといい、下を向いてしまった。


「あやめ、気にしなくていいよ小鳥遊の言う通りあやめの発言は間違ってないから」


「え、二人してひどくない?ねぇ、ひどくない?」


片岡のオーバーなリアクションに俺も東雲も少し吹き出してしまう、それを見て片岡も笑い、下を向いていた四十川もつられて笑顔になっていた。


そんな調子で勉強はあまり効率的には進まず時間は進み気がつくと6時半を回っていた。


「そろそろ帰るか」


「そうね、いい時間だし片岡もあやめも切り上げましょ」


「りょーかーい」


「わ、分かった」


教室を出ると廊下は真っ暗になっており職員室の方のみ明るくなっていた。


「ひー真っ暗だぁ、ライトライト」


片岡がスマホのライト機能を使い廊下を照らし、生徒玄関まで歩いた。


「あ!そうだ!」


玄関を出る一歩手前で片岡が何か思いついたように、こちら振り返る。


「期末テスト終わったらさ!みんなでどこかに遊びに行こうよ!四十川さんも!」


驚いたのか四十川は目を見開いている。


「え?わ、私も?」


「嫌だった?」


「違うの、私なんかがいっていいのかなって」


四十川はうつむいてしまいどこか自信なさげな態度を見て、俺は掃除中の東雲との会話を思い出した。四十川は東雲と幼馴染なのだが昔、友達関係で苦い思いをしており一時期家に引きこもってしまっていたのだと東雲は言っていた。今回四十川を俺たちに紹介したのはきっと東雲は四十川を心配してのことなのだろう、東雲はあまり感情を表に出さないが俺はこの2年ちょっとの付き合いで知っている、東雲はとても優しく、自分よりまずは他人の心配をする、そういうやつなのだ。


「当たり前じゃん、な!小鳥遊!」


片岡は強引に俺と肩を組み、パスを渡してくる、自分の気持ちをうまく言葉にできなかったのだろう。


「そうだな、俺たちはもう同じ時間を共有した仲だ、最初の出会いこそは最悪だったがもう友達だと思ってるしもっと仲良くなりたいと思ってる」


「...っ!」


「あ...」


気づけば四十川の目は少し潤んでいた、しかしさっきのように俯いてはおらず俺と目が合っていた。


「わ、私...」


四十川は目に涙を溜め優しく微笑み。


「い、行きたいです!私も遊びに!っ」


はっきりとしっかりと俺たちに四十川はそう答えた。


俺の後ろで「よくやったな、あやめ」と今に泣きそうな東雲の小さな声がした。

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