第2話 全力で目の前のこいつにグーパンしたい件

禿げろっ

はげろはげろはげろはげろっ…


心の中で呪詛を唱えるが一向に禿げる気配はない。


心の中にダークマターが生まれて侵食してくる

気持ち的には髪の毛はメデューサのように逆立っている



先ほどの選択肢

どれも却下!!!!


だが、どれほどその画面のままで居ても時は進まず、身体は自由に動くことなく口すら自分の意思では開かない。



選択肢を選ぶ他ないらしい。



Yes or はい




仕方ないとりあえず①だ




「アナスタシア…君を幸せにするよ」



そういうと王子は左頬に手を添え顔を近付けてきた



これってあれかい?さっき回避したあれかい?

なんでやねん!選択肢こいこいこいこい!!!!!



選択肢は来ない



ゆっくりゆっくり顔が近づいてくる




ああーーーーー




ムカつく!!!!!



あたしの緊張なのかアナスタシアの緊張なのか手が汗ばむ。



とにかくこいつをっ


こいつをっ



全力で殴りたい!




ドガっ

鈍い音が響いた



気づくと王子は倒れていた。

アナスタシアであるあたしは息をきらして拳がプルプル震えていた。


『よくわかんないけど、どうにかなったみたいっ…』


とりあえず大きな声を出そうと大きく息を吸った



のだが、声は掠れてしか出てこない。

その中でもできるだけ大きな声で心の底から叫んだ。


「…こんなっ…こんなストーリーなんてっ認めないっ!!っ…はぁはぁ…あたしはっ、あたしは自分のしたいようにするんだっ!!!!」



空気がピリピリする。


なんとなく分かってたが、やっぱり王子を殴り飛ばしてはいけなかったようだ。

だがそんなの関係ねぇ!!!

あたしの意思無視したストーリーなんかくそくらえ!!!ゴリマッチョこそあたしには正義だ!!!!


完全に余談だが、ももちゃんの部屋には男性アイドルやゲームのキャラクターのポスターが飾ってある。一方あたしの部屋にはプロレスラーや格闘家の写真が飾ってある。



あと、あたしの中では重要なことがあった。


しんっ、と静まり返った大広間の中で身体を引きずりながらあたしは彼女の元に向かった。


「この人はっ、この人は悪いことしたんだと思う!!!…でもさ…こんなところに叩きつけていい理由にはならんだろっ!…そんなことやってたら同じじゃねーかっ!同じこと繰り返して何になるんだっ!!!!!」


身体を引き摺りながら金髪縦ロール美人の腕を取り彼女を支えた。

彼女の身体は冷たく小刻みに震えていた。

目に涙を貯めるが、必死に涙を溢さぬように、それを誰にも見せないように顔を下げる。

これが世にいう悪役令嬢なんだろう。

だが私には気高いお嬢様にしか見えないのだ。


確かに嫌がらせされた記憶はある。

階段から突き落とされた時は流石に殺人未遂と言っても過言でないだろう。

でもなんとなく落としたのはたまたまな気がするのだ。落ちていく瞬間に見た彼女の表情は怒りや嘲笑の顔でなく心配の表情だったのだ。

その時王子が落ちるすんでの所で助けてくれた。それには感謝しているのだが、金髪縦ロールさんがアナスタシアを階段から突き落としたとしてその場で凶弾していた。

その時の縦ロールさんはアナスタシアに駆け寄ろうとしたように見えたが、王子はそれを阻止した。「次は何するつもりだ!」と、聞く耳を持たなかった。


記憶はあるが、あたしにとってアナスタシアはあたしではない。不思議な感覚ではあるが、テレビでアナスタシアの人生を復習した感覚なのだ。

なのでアナスタシアの感情=あたしの感情ではない。

アナスタシアは庶民の頃から持ち前の明るさや愛らしさで町の皆から愛されて育ったようだ。確かに貧困で洋服等はボロボロだったが、お母さんの愛情と努力で飢えた生活はおくったことがなかった。

そんな中、学園に入り縦ロールさん御一行に嫌みや妬みをぶつけられたりしたことで、アナスタシアは縦ロールさんを恐怖の対象で見ていたようだ。

だが、あたし的な観点から見るとそんなの女の世界では日常茶飯事だ。

女なんて言葉でマウンティングしようとする生き物だ。あたしは小学生からの延長でスポーツする友達に男子が含まれてる。だいたいそいつらは中身ガキンチョなくせに同年代にはモテる訳で…嫉妬に狂った女子たちは訳のわからない言いがかりをつけてくるもの…

つまりは慣れっこである。

それに考えてみれば非常識だと色々指導されていた気がする。取り巻きは完全に自己否定しかしなかったが、縦ロールさんが感情的に怒ったのは階段から突き落とされた時だけである。感情的になって押してしまった。その時場所が悪く階段で落ちてしまったとあたし的には思ってしまう。


「何を言い出すんだ!アナスタシア!君はあれほどエリザベスを怖がっていたじゃないかっ…」

ジョセフ王子はよろけながら立ち上がるとそう言った。顔には困惑の表情が張り付いている。


周りの視線が痛い。

王子とイチャイチャしてたら急に殴り飛ばして、イジメの主犯格をかばっているのだ。

情緒不安定な人間にしか見えないのだろう。


だが知ったこっちゃない!


ただ殴りたかったんだ!

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