エピローグ

狂怒 ― Fury ―

 あれから一〇年以上が過ぎた。

 勇気は高専5年生の時に、韓国の工科大学の編入試験に合格し、韓国の釜山に本社機能を移していた「水城みずき」の製造元である高木製作所の子会社・高木研究所の研修生インターンとして働く傍ら、大学に通い、そして、修士号を取り、設計部門のエンジニアになった。

 しかし、もう、勇気は、かつての職場にも、「秋葉原」にも居ない。テロ組織「神の怒りフューリー」に引き抜かれ、その一員となったのだ。

『敵の「鎧」は一体だが、支援用のロボットが確認出来ただけでも5つ。全て下の階。1つは「シルバー・ローニン」のほぼ真下だ』

 両眼立体視型のモニタに「敵」の位置・方向・距離が表示される。声の主は、かつて、あたしと勇気を助けてくれた高木瀾。彼女は、「正義の味方」として戦う中で大怪我を負い、一線を退き、開発と後方支援を担当している。

 そして、瀾がかつて使っていた白銀の鎧「対神鬼動外殻『護国軍鬼4号鬼・改』」を受け継いだ少女が、手にしていたレールガンの銃口を床に向ける。

『「シルバー・ローニン」、ここがどう云う場所か判っているな?』

はいConfirm。「島」ではなく、㎞単位の巨大な「船舶」と認識しています』

そうだConfirm。レールガンの威力は2に落してある。威力を上げる必要が有る場合は、こちらの判断を仰げ。くれぐれも「島の底」をブチ抜いたり、「島」の下層の住民に危害を加えないように注意しろ』

了解Affirm

 徹甲弾が「神の怒りフューリー」のロボットを床ごと撃ち抜く。

 続いて、こちらの偵察用の小型の8足歩行ロボットが、床に空いた穴より下の階に入る。そして、「シルバー・ローニン」が下降用のザイルを設置後、今回のメンバーの中のリーダー格である「緑の護り手ヴァージャー・ウォーデン」がハンドサインで突入指示を出した。

 下の階に降りると、鉄屑と化したロボットが有った。弟と妹を死なせてしまい、長生きを望めない体になってしまったアイツが、自分が生きていたあかしとして、そして、失なった家族が、かつて、この世に在ったあかしとして、必死でこの世に残そうとしているモノが、また一体、「死んで」しまっていた。

 今回の敵が使っている戦闘用ロボットを設計したのは勇気だ。

 勇気は、あの日、「神保町」の魔導師にかけられた精神支配……と言うよりも「呪い」によって、いつしか戦闘依存症とでも呼ぶべき状態になっていた。

 1年未満の間とは言え、喜びも悲しみも怒りも感じる事が出来なくなったアイツにとって、普通の人間が「感情」によって得ている「何か」の代用品は……死の危険に伴なう緊張感だった。それだけが……灰色の世界に放り込まれ、自分の意志で、そこに留まったアイツが感じる事が出来る数少ない鮮烈な刺激だったらしい。

 その結果、「自警団活動」の最中に無茶をやって、大量の放射性物質を全身に浴びてしまった。

 そして、瀾が引退する事になった戦いの際に大破した白銀の「鎧」の再設計・修理には、あたしも関わっている。

 今、目の前で起きた事……それは、見方によっては、あたしの子供が勇気の子供を殺したようなものかも知れない。

 この「任務」の為に、何年かぶりに、第2の故郷である「秋葉原」に戻って来た。

 十数年……ある意味で、たった十数年……子供と大人の中間ぐらいだったあたし達が、おじさん・おばさんの入口ぐらいの齢になる程度の歳月で……世界も、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」も在り方を変えた。

 変り続ける世界に対応出来ず、警察も軍隊も形骸化し、その代りを「正義の味方」「御当地ヒーロー」が担うようになっていったが、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」のやり方も、合格点には程遠く、そして、今も変り続けている。あと五年後・一〇年後には、あたし達も、時代に追い付けなくなっているだろう。今のあたし達に出来る事は、次の世代に、あたし達の経験を伝える事……。それを、次の世代が、新しい時代で、活かしてくれれば……。

 今の「本土」の状況は、もう、あの頃の「Neo Tokyo」の状況に近い。他の国も似たようなモノだ。「正義」「悪」「一般人」の垣根は曖昧になってしまっている。

 ふと、かつての正義君と仁愛ちゃんの様子を思い出そうとしたが……何故か……あの頃の2人の顔を思い浮かべる事が出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Neo Tokyo Site 01:第一部「Road to Perdition/非法正義」 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ