(ⅲ)

「『小坊主』さんッ‼ どうしたのッ⁉」

 レナは、横で倒れかかっているライダースーツにヘルメットの男に声をかける。格好は似てるが……多分、昼間の男じゃない。

「その人を離しなさいッ‼」

 メガネっ娘が声をあげた。あ……まずい……こいつらに離せとか言うと……。

「これでいいのかッ‼」

 今村の叫びと共に、もの凄い勢いで「斧」が回転しながら宙を飛び、そして……。

「うわっ‼」

「えっ?」

 メガネっ娘と、「ニワトリ」男は、身を屈めて、何とか「斧」を避けたが、「斧」の刃の部分は、俺達が乗って来たトラックのコンテナに突き刺さった。

 その一瞬前に、俺は、「斧」の柄から手を離していた。

 そして、あの異形の「天使」の姿は消えていた。

「これが、あんたの実力だ……。その『水城みずき』を着装つけてても、その程度だ。何をしに来たんだ? 死にに来たのか?」

「おい、そっちが年下だろ‼ その口のきき方は……」

「あのなぁ、あんたの妹と弟を助けられても、肝心のあんたが死んだら、何にもならないだろッ‼ あんたの妹や弟が、折角、家に帰った途端に、あんたの葬式かッ⁉ そうなりたくないなら、家に帰って寝てろッ‼」

「だから、年上に『あんた』って……そんな口の聞き方じゃ……どんな正論でも、誰も説得出来な……」

「生きるか死ぬかの話なのに、何、くだらない事にこだわってんだよッ‼ あと、SNS上の間抜けがやるような反論しか出来ないのか、あんたはッ‼ アイツが言ってた通りだ。あんたは、底抜けの馬鹿だ。アイツがあんたにキツい事言った時に、少々、同情した俺も同じ位の馬鹿かも知れないけどな。あんたが馬鹿だと見抜けなかった」

「いい加減にしろッ‼」

「いい加減にして下さいッ‼」

 レナとメガネっ娘の意見が偶然にも一致した。

 その時、レナや今村達に、何かの無線連絡が入ったようだった。レナ、今村、もう1人の男は、口々に「えっ?」「何?」「どう言う事?」とか言っている。

「とりあえず、俺が応援に行きます」

「判った。お願い」

 今村は、レナにそう言うと、狼男の姿のまま近くに有ったバイクに飛び乗り走り去っていった。

「……おい……何で、俺にはタメ口で、レナには敬語なんだ?」

「それよりも……何をするつもりなの?『靖国神社』が……」

「パワーローダーを出して来た事は知ってる。でも、今度のは有人なら……操縦士を呪殺出来る筈だ」

「はぁ、知ってたんだ……。だけど……操縦士が何者かは知らないでしょ」

「えっ?」

「何?」

「どう云う事ですか?」

 俺と「ニワトリ」男、そして、メガネっ娘は、ほぼ同時にそう言った。

「あのパワーローダーを操縦してるのは……おそらく中学生ぐらいの女の子……。仁愛にあちゃんぐらいの齢を子を呪殺するつもり?」

 えっ? おいおい……待て……流石に……それは……。

「なら……可哀そうだが……殺してやるのが情けだ」

 ちょっと待て、おい、「ニワトリ」男、何を言ってる。

「もし、その操縦士が……女の子をパワーローダーに乗せて戦わせる見世物に使われてる子供なら……ロボトミー手術をされている可能性が高い……。助けても、元の生活には絶対に戻れんぞ……。自分の意志を奪われている以上な……。仮に、助け出して、家族の元に返しても……家族がツラい想いをするだけで……その後も家族の負担になるだけだ」

 そ……そう言えば……あのチビのメスガキが……そんな事を言っていた……。いや……待て……仁愛にあも、その「見世物」の操縦士の候補なら……。

「行くぞ……2人とも……。俺達の手で……哀れな子供を……楽にしてやろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る