第4車 動き出す電車と心2

私は無事に吐くことなく玄関で朝を迎えた。

幸い今日は休日のためベットに潜って二度寝を決め込む。

再び目が覚めた時には夕方になっていて完全に休日を無駄にする形になった。

久々の休日を無駄にした感じになったがまぁ良しとする。

鈍く痛む頭を押さえながらテーブルの上のビニール袋の中に目を移すとそこにはメモが入ってた。


『これを見たら直ちに連絡すること。これ俺のケー番だから。LIMOして。

                                拓人』


彼の連絡先の書いてあるメモだった。

抜け目のないやつ、と思いながらも素直に登録していく。

人の連絡先の登録なんて久々だななんて思いながら言われた通りに連絡を入れる。


「こんばんは、夕月です。昨日はご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。っと・・・。」


送ったと同時に返信が来る。大学生でしかも4年生だと言っていた彼は暇なんだろうか・・・と考えながら予想よりはるかに早い返信に思わずドキッとなる。

どうしよう、開きっぱだから既読ついちゃった・・・。

そういえば同僚以外、しかも仕事以外でのやりとりを男の人とするのはいつぶりだっけ?返信ってどうしたらいいの?すぐ返していいんだっけ?でも既読つけちゃったし・・・。なんてうだうだ悩んでいたら電話がかかってきてしまった。

ディスプレイに映る「拓人」の文字が青白く光る。

焦りすぎてスマホを顔面にダイブさせながらなんとか息を整えて電話に出る。


「も、もしもし?」


「俺,拓人。ちゃんと登録できたみたいだな。今時間ある?」


「え?あ、うん。あるよ?どうしたの?」


「よし、今度の日曜空けとけよ。」


「・・・は?!え!ちょっとまっ。」


私の返事を最後まで聞くことなくテレレンと通話が終了された。

申し訳なさそうに光る画面には新着のメッセージ。


『今度の日曜、20時この前の居酒屋で。』


もちろん差出人は拓人だ。まさかこんなに強引な奴だったなんて・・・。

運よく休みだからいいもののこれで仕事だったらどうする気でいたのだろうか?

またしても昨日会ったばかりなのに次が決まってしまった。

彼はそんなに暇なの?と再び考えてしまう。そんなはずはないだろうと思いつつ

卒論や就活があるんじゃないの?私にかまけてていいのか?というかどういうつもりだ?などと勘ぐってしまう。その思考とは裏腹に次の日曜はどんな服を着ていこうと浮かれていた。


「いやいや、乙女かよ。」


と、セルフ突っ込みをしつつまぁ久々に有意義な休日になりそうだからたまにはいいかなんて思いながら明日の仕事の準備をしてご飯を簡単に済ませてもう一度寝ることにした。


「んー・・・朝か。」


もそもそと起きだして仕事に行く準備を始める。朝食を済ませて手早くメイクをする。もう毎日の事なので慣れたものだ。新人の時なんてメイクに手間取るので朝も早かった。それが今やお茶を飲む時間すらある。そうしてすべての準備が終わり今日はアールグレイにしようかなと気分にあった紅茶を選んで淹れる。それを飲みながら持ち物の確認をして家を出る。いつもの日常。京浜に乗って職場までその日のニュースや気になるファッションをチェックする。少し違うのは昨日の乙女みたいに浮かれてた自分を思い出してこっぱずかしくなって余計別の事に集中しようと躍起になっているから・・・だと思う。

いつも同じ時間、同じ席。いつも同じ人か同じ時間に乗ってきては降りていく。それをぼんやり眺める。そこにいるのは何時もより浮かれている自分。私のいつ場所だけが異世界みたいだな、と他人事のように考えていた。

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