第3車 動き出す電車と心

そんなこんなで少し遅い自己紹介をすることになった。


「確かに。俺は朝倉拓人。一応大学四年。」


「ふーん。私は夕月薫。外回りが主な仕事かなぁ。にしても大学生だったかぁ・・・。四年ってことは22?くらいか。」


「そう、ことし22。そっちは?」


「私はこの間25になったばっか。いやぁ・・・若いねぇ。」


「なんだよ、そのオヤジくさい言い方。」


「いやー・・・私はもう年だし?」


「俺と大して変わんないじゃん。」


「いやいや、3つも違うと心も体も老けるってもんよ?」


「そんなもん?」


「そんなもんよ。」


「ふーん・・・。」


やっと自己紹介を済ませた私たちは色々な話をしたと思う。

学生の時の話、好きなもの嫌いなもの。

普段よく使う路線や休日は何をしてるのか。

とにかく沢山、時間の許す限り話をした。


「あ、いっけね終電・・・っ!方向一緒だし送る。」


「え、いいよ。駅近だし。」


「は?いい年した女がこんな時間に一人で歩くとかないわ。送ってく、決定ね。」


「いやいやいや・・・君ね。」


「言い訳は聞きません、ほら早くしないと本当に終電なくなる。」


「え、それは困る・・・!明日も仕事っ・・・!」


慌てて急かされるまま、支度をして急いで駅に向かう。

呑んでるせいと走ったせいでだいぶ気持ち悪い。

落ち着いたところでお金を差し出される。


「ん。半分返す。」


「いや、いいよ。お礼させてって言ったの私なんだし奢りだよ。これだけはゆずりませーん。」


「チッ。わかったよ。」


そう言って渋々お金を引っ込めた拓人を連れて足早に電車に乗る。

電車の揺れで気持ちよくなってきてウトウトしながら時折隣にもたれかかる。

ほんのり感じる温かさに心地よさを覚えてまどろんでいたのも束の間、どうやら電車は目的の川口までやってきていたようで起こされてしまった。


「おい、着いたぞ。」


「んぅ・・・。わか・・・た・・・。」


「寝そうだな・・・歩け・・・ないな。」


「歩け、るよー・・・。」


「肩貸してやるから!ほらっしゃんと歩けって!!」


道案内をしながら支えられて家へ辿り着いいた私は玄関に座り込んだ。


「おい、そこで・・・布団行けって!あーもう、ちょっと待ってろよ。」


「あーい・・・。」


しばらく経つとがちゃんと扉が開く。


「ほら、水とかヨーグルトとか。これ飲んできちんと布団で寝ろよ。俺、帰るから。いいな?」


「あーい・・・。」


そう言って彼は帰っていった。

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