出来損ないの死神さん

葉月 僅

第1話


「また、メッセージが来てるなぁ」



 これでもかというほど、晴れ渡っている空が広がっている気持ちの良い朝。


 そんな朝に、厚手のカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、鮮明な明かりを放っているパソコンの画面を見ながらある男が独り言を呟いた。


 その男は、『死神さんへの愚痴吐き所。』というサイトを『死神さん』と名乗って運営している。

 自ら命を絶とうとしている少年少女たちの間では有名な相談サイト。


 自殺する前にこのサイトで、死神さんに思っていること、愚痴などを話す。

 そうすると、死神さんからメッセージが返ってくる、というシステムだ。

 それによってまだ生きたい、と思い直したり、やっぱり死にたかったら自殺してしまう、ということになる。

 ただ、ここに来る人は大体が誰かに止めてほしいと思っているため、大方自殺する人はいないが。


 ごく稀に、死んでしまう人もいる。


 そんな人が出てくると、死神さんは自分の能力不足を悔やみ、これ以上死者が出ないように、と奮闘する。これの繰り返しだ。


 ちなみに、『死神さん』と名乗っている男は、一応本当の死神だ。

 死神とはいっても、世間一般に広まっているような邪悪な見た目をしていなければ、鎌を持ち歩いてることもないのだが。


 『死』という暗く恐ろしいものの神という字を書くからそう思われているのかもしれない、と彼は思っている。


 本当の死神は、日常に溶け込んでいるし、容姿だって人間と変わらない。

 ただ、時々死にたいと願う者の手助けをしたり、死んだ人の魂を運び届けたりする。

 それ以外の時は会社に勤めたりしていて、せっせとお金を稼いで暮らしている。


 この死神も例外なく自らの責務を全うする……かと思いきや、そんなこともなかった。


 死んだ人の魂はちゃんと運んでいるのだが、死にたいと願う者の手助けはせずに、なんとかしてこの世に留まるように…………生きるように説得していた。


 ただそれは、自分の役割に背いていることになる。


 そのことから、自分のことを『出来損ないの死神』と言っていた。






これは、そんな『死神さん』と死にたがりの少年少女の物語。

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