鱗 - 秦基博


 キリンジに触れたら秦さんも触れたくなった。そんな日々です。


 鋼と硝子で出来た声。


 そのように評される彼の声を初めて聴いた時は本当にびっくりしました。確か僕は高校生。若さ溢れて友人のわきすねに脱毛クリームを塗ったり、部室で脱衣UNOに明け暮れていたときのこと。思い出しても共学で周りに沢山女の子がいたのに男ばっかりで遊んでいました。高校の入学式、全校生代表として訳も分からないまま答辞を読み、ちやほやされたこともあったのに何も浮ついた話がなかったことに驚愕です。


 そんな時(?)に出会ったのが秦基博さん。


 透き通るようなハスキーな高音。でも、その歌声はあの有名歌手でさえ「ズルい」と言わしめるほどの力強さも兼ね備えています。


 そして、この「鱗」と出会った時、僕は冷たい透明な沢の飛沫を顔面に食らったような衝撃と清々しさを感じました。

 

 透き通る清流のようなピアノの前奏に、ストリングスが合流します。小さな滝が流れる森の中というMVの印象も相まって、魚なのですが、潮の匂いは感じません。新緑が溢れる夏の森。それが鱗という曲の舞台です。


 ――――――――――


 少し伸びた前髪を かき上げた その先に見えた

 緑がかった君のに 映り込んだ 僕は魚


 ――――――――――


 歌い出しから爽やかさが爆発していますね。

 でも、この僕は君の瞳の中に映り込むばかり。何も出来ないまま、君は僕から離れていきます。


 それでも、僕は動きません。その身を守ろうとして着込んだ鱗の鎧があったから。身動きが取れなくなっても、傷つかない方が良いと思ったから。


 でも、ふと気づくのです。

 ――失いたくない。

 

 だから、君に会いに行く。ただそれだけに突き動かされて行きます。


 ――――――――――


 君に今 会いたいんだ 会いに行くよ

 例え どんな痛みが ほら 押し寄せても


 ――――――――――


 その声は清い水に乗って流れるように、跳ねるようにどこまでも伸びていきます。岩にぶつかって血が滲んでも、夏の風に乾いた声がかき消されそうになっても、その身に纏う鱗を脱ぎ捨てて、ただひたすらに君のもとへ。


 良いですねー。

 一途で、爽やかで。少しの痛みを伴って。


 夏の曲と言えば、火柱がぼんっと上がって、汗を滴らせながら熱狂の渦に巻き込まれて行くタイプの曲もあれば、しっとりとした虫の音に耳を澄ませ、暮れ往く夕暮れの郷愁に浸る曲もある。どれも良さがありますが、このようなハリがあってすずやかな曲も大好物です。


 そして、なにより秦さんの歌声が情調を掻き立てます。伸びやかな高音に煌びやかなギターの和音。こんな風に歌えたら、と誰もが思うに違いありません。


 夏の始まりはこの歌を聞いて、駆け出しましょう。

 鱗がぱらぱらと剥がれるように、身体が軽くなっていきますよ。







 鱗 / 秦基博

 https://www.youtube.com/watch?v=x2WP1ZSQVlQ

 むかしはフルVerのMVあったのになぁ。探しきれませんでした。

 代わりにこちらを。(きれいな顔してるだろ)

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