第17回 書き出し祭り/4-25『奇蟲ガール』感想

※小説家になろう様にて開催中の、第17回書き出し祭り参加作品への感想です。


 不思議な世界観のお話でした。

 この手の気味の悪さはとても好きです。

 キノコに寄生された新生児が出てきたところで、ジェフ・ヴァンダミアの『全滅領域』を思い出しました。

 SF映画にもなっていて、『アナイアレイション -全滅領域-』で検索すると出てくる画像で何となく伝わるかなと思います。

 あれ、映像が美しいので、観たことがなかったら是非〜。

 冬虫夏草とかではなくて、SFですが。


 冬虫夏草に似た、人に寄生するモノに蝕まれた人間世界で、未だ人間として存在しているらしい主人公が、最初で最後の恋をするお話らしいというのがあらすじで語られます。

 が、冒頭、主人公はどうやらその恋とは離れたところにいる様子。

 名も知らぬ女性とホテルへ向かっているらしい。けれど主人公は、ホテルで女性と行為に及ぶことができない。“女性が苦手”という幼少期からのトラウマを克服することはできなかったと語ります。

 それに応える女性は冷静で、女を抱けない主人公は種の保存のために何ができるのか、何のために生きているのかと疑問を投げかけます。

 あまりに人間離れした思考回路を持つ女性を目の前にして、主人公の過去へと場面が移り変わっていきます。

 あらすじから読み取ったのは、主人公である鮎川と、ヒロインのジュエルの恋の話でした。けれど、冒頭、書き出し前半部分で主人公とジュエルの関係性は全く語られません。

 タイトルでも示されているように、恐らくジュエルは蟲であり、前半で出てくる名も知らぬ女性も蟲なのでしょう。この二人は髪の色が同じであると描写されているから間違いないと思うのですが、主人公とジュエルとの恋の話があった後の前半部分であるはずなのに、主人公は”蟲“に対してあまりにも無知すぎる。

 ジュエルに恋をしていたなら、“蟲”の思考回路に関してもっと理解があっても良さそうなのに。なので、これはきっと伏線なのだと思いました。

 恐らく、主人公はジュエルとの関係性を完全に忘却しているのです。

 人間として、人間らしく、最初で最後の恋をした結果、主人公はその恋を失ってしまったのではないかと。


 一話後半部分から、主人公とジュエルの父の出会いが描かれます。

 女性に興味を持つはずのなかった主人公が、この二人は本当に親子なのだろうかと疑問を抱くところからジュエルへと近付いていく理由が語られるシーン。

 他、当時の状況説明がなされるために全体的なトーンは落ちますが、気になるポイントがぎゅうぎゅうでも疲れると思うので、いい塩梅なのではないかなと思いました。

 ジュエルと主人公の関係性がほとんど描かれない一話でしたが、ここから二人の交流が始まり、恋の過程が描かれ、最終的にジュエルやジュエルに対する情報を思い出してラストに流れ込む構成でしょうか。どうなんでしょう。

 作者様が校正の際に取りこぼしたと思われる”教祖”という単語にも不穏なものを感じますし、人類は滅亡するっぽい雰囲気ですし、是非とも救われない感じのラストに着地して後味悪く終わってほしいところです。(私の個人的な好みの話です)

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