第8話 質疑応答


「トキヒロさんは地図は持ってますか? もし持っていたら見せて頂きたいのですが……」


「地図か……。紙に書かれた地図ってのは持ってないね。でもこの世界がどういう風になっているのかは見せることができる。ちょっと待っててくれるかな?」


 そう言うと、スマホを取りに一度席を立つ。パソコンやタブレットがあれば大画面で見せてあげる事ができたのだが、生憎俺は持って居ない。買っとけばよかったなぁ、と後悔しつつスマホを持ってリサの隣に座った。


「これはスマホって言って、なんて説明すれば良いのかな……。色々と疑問はあると思うけど、まずはこの画面を見てて欲しい」


 そういうと、画面の電源を入れ地図アプリを立ち上げる。いつもは簡易表示にしている画面を航空写真での表示に変更し、リサに見せた。


「空を飛ぶ鳥が居るでしょ? それよりももっと高い場所から見下ろした景色が見れるような装置……? って説明したらなんとなくわかってくれるかな……」


「な……、なんとも摩訶不思議な装置ですね……。まるで神の視点のような……。トキヒロさんの手のひらの中に世界があるようです……」


 世界中のありとあらゆる情報にアクセスできるこの装置は、言ってしまえば世界そのものの様な物で、言いえて妙だな。と一人で納得してしまう。まぁ、今情報にアクセスとかそんな話をしてしまうとややこしくなってしまうので割愛するが。


 地図アプリを操作して、世界地図を出す。この画面だけでユーラシア大陸、アメリカ大陸、オーストラリア大陸が見えるようになった。


「この青い点が、今俺たちが居る場所。この細長いのが日本で、その上の大きな大陸が中国とロシア。右側の大きな大陸がアメリカとカナダ。下の比較して少し小さめな大陸がオーストラリアって国。どうかな……、やっぱりリサの住む世界と全然違う?」


「そうですね……。正直少しも期待しなかったと言えば嘘になりますが、やはり私の住む世界の地図とは全く違います……。大陸が違うだけかとも思いましたが、どの大陸を見ても共通点を見つけられないほど違いますね……」


 一縷いちるの望みをかけて地図を見せて欲しいと言ったみたいだが、わかったのはやはりここが違う世界だという事。気落ちしてしまったような雰囲気が言葉から伝わってくる。


「その、魔法とかについて全く詳しくないから全部憶測になってしまうんだけど色々質問しても良いかな? なにかそこで糸口が見つかるかもしれないし」


「はい、私も色々と聞きたいのでお願いします」


 そこから俺は色々と疑問に思っていた事をどんどんリサにぶつけていった。


 まず、自分に転移魔法を掛ける事はできないのか。という質問には、今のリサの魔力量では無理だという事がわかった。


 魔力を増やすトレーニングがあるそうなのだが、その増加量は微々たる物で、リサの祖父は百年近い歳月をかけてようやく転移魔法を一人で行使できるようになったらしい。リサの見立てでは、同じく百年トレーニングしても、もしかしたら届かないかもしれないらしいので現段階では無理。


 そもそもなんでこの世界に転移してきてしまったのかは全くわからない。術が完成する前に術者が害されてしまったせいで、不安定なまま行使され座標が固定されていなかったのではないか、というのがリサの予想だ。


 世界というのは、全く同じ同軸同位の状態で常に可能性として存在する、らしい。全く理解できなかったが、今居るこの空間に同じような世界が無限大にあり、それが同時進行しつつ干渉も観測もできないような状態。らしい。わからん。


 でもトラブルが起きて干渉をしてしまった、と。もしもっと運が悪ければ、虚空に飲み込まれて存在そのものが消失していた可能性もあったそうだ。不幸中の幸いと言って良いのか悩むが、少なくとも生きている事だけでも奇跡というレベルらしい。わからん。


 あと、言葉が通じる魔法は、リサが俺の言語を脳みそからダウンロードしてインストールしたらしい。もちろん説明された言葉は違うが、意味は同じだ。お陰で、ライトノベルにありがちな喋っている口の形と聞こえる音が違うといった事も無いし、言語のデータには発音の仕方も含まれて居るそうで、完全にネイティブレベルで聞こえる。


 後は魔法を見せて貰ったのだが、魔法というのは個人が持てる魔力を使う魔法と、環境型と言って空気のように満ちた魔力を使って行使する二種類の魔法があるらしい。


 しかし、地球というかこの世界にはほとんど満ちる魔力が無く、環境型の魔法を行使してもどんどんと減衰してしまうし、魔力は完全に自分の持ち出しになってしまうので、以前使えていた魔法に比べるととても小さな物になってしまうそうだ。


 これはリサに魔法を見せてくれと言ったら魔法が行使できず、リサが気付いた。翻訳の魔法は環境型の魔法ではなく、自分の体から極近い場所で行使される魔法の為、減衰されることが無かったので気付かなかったらしい。本来であれば、見上げる程の火柱が上がる魔法である【 炎 柱 】フレイム・ピラーを使っても、使い捨てのガスライターほどの火力にしかならなかった。


 色々とその後も互いの疑問点をぶつけ合ったが、正直手詰まり感が積みあがっていくだけで具体的な解決方法が浮かぶ事は無かった。

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エルフの嫁さん! 異世界からエルフの姫様がボロアパートに転移してきたのだが……。 神月 昴 @subaru_kamitsuki

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