超問題作、世界の真実を解き明かせ

 恐らく順を追ってレビューをしないと文章が破綻するために、しっかりと分けてレビューしていこう。

 ストーリー、構成について。
 冒頭こそはあらすじ通りに進むが、話が進むにつれてどんどんと規模が大きくなっていき、予想だにしなかった場所へと辿り着く感覚はまるで、映画インターステラーのようなワクワク感を覚えた。
 最終話に近づくに連れ、「ああ、これが世界の真実か……」とフィクション小説でありながら、本当にこの小説で成された世界が現実なのではないかという錯覚に陥る。
 それはまさに良質なストーリーの成せる業だし、筆者の技量が伺える。何より読み始めてから一晩で読み終えてしまった状況を鑑みるに、どれだけ面白いかを語るにはこの「一晩で読み終えてしまった」という事実で十分だろう。
 強いて言えば、後半の世界ネタバレ後の展開が少し畳み掛けすぎでは?と思ってしまう。まあ大団円に近づいていっていると考えると許容できるが、冷める人は冷めてしまうのではないかという懸念がある。
 しかしSF超大作でありながら、スッキリと面白かった! ではなく、日常系の最終回のように、彼らの物語をもっと見ていたいと思わせるほど、私は彼らに愛着がわいてしまっている。

 次に主人公について。
 愛、世界、量子力学、AI、多くの?要素を多分に含んでいるこの作品において、主人公の存在は大きい。基本的に理系大出身で、AIにも知見があり、この物語を主導しているように見せかけて、彼はしっかりと読者の目線に立っている。
 終始愛について悩んでいるし、AIの進化に一喜一憂する。なにか薄らと謎に包まれている多くの登場人物の中で、唯一ほとんど平凡な彼の存在が、この謎を解き明かすうえで、とても良い立ち位置にいて、様々な驚くべき行動を繰り返す登場人物たちに対し、読者である私が言いたいことを、しっかりと主人公が代弁してくれる姿は清々しい。
 昨今ファンタジーにおいて異世界転移などが流行っているのは、主人公が異世界について何も知らないという点と、地球での基準を持っているということから世界の説明を不自然なく行うことが出来るという強みがあるからだと思っている。
 この主人公はそれをまさにSFという学がない人間にとっては難儀な世界を、不自然なく説明する指標としてしっかりとその立場を一貫出来ていると思う。

 世界観について。
 これがまさに超問題だ。
 それこそ先ほどあげた異世界転移などの小説を読んで、ああ自分もこんな世界に行けたらと現実と小説をリンクさせることがある。
 しかしこの作品の読後感というのは全く以て違う。
「ああ、自分の住む世界はこれだったのか……」
 と、このフィクションをあるがままに受け入れてしまうほどに精巧で、何より都市伝説程度の知識しかない私では、突きつけられた事実と証明に反論することが出来ない。
 何よりネタバレになってしまうので、多くを語ることは出来ないが、本当にヤバい。語彙力が死ぬレベルでヤバい。

 総評。
 素晴らしく面白い作品だった。もちろん所々に粗が目立つところもあるが、それを含めても、面白さについては私が今まで読んだ小説、プロも含めて上位に食い込んでくるほどの作品だった。
 是非やりすぎ都市伝説であったり、YouTubeで都市伝説系動画を見る人はこの作品を是非見てほしいし、この世界で生きにくいと感じている人達にも読んでほしい。
 世界の謎を解き明かすSF小説でありながら、生きる希望を与えてくれる小説であるとも、私は思う。

 星は文句なしの三つ。
 素晴らしい作品だった。

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