第5話

二人がようやく泣き止んだ時には、空が白み始めていました。


「おばあさんの目、真っ赤だよ」


鼻をぐずぐずさせながら、妹は笑って言いました。今では、魔女の頬を包むように手のひらで温めています。

妹の言葉に、魔女はあんただって、と言い返します。妹が初めて聞く、すっかり和らいだ声でした。


「あんたの目だって、まっかっかになっちまってるよ」


魔女は妹から離れ、鏡を出してきました。鏡で自分の姿を見た妹の目は、木いちごのように真っ赤です。本当だ、と言って、妹はけたけた笑い出しました。

さっきまであれほど泣いていたというのに、です。


「さっきまでさんざ泣いてたくせに、もう笑うのかい。騒がしい子だねえ」


うっとうしいと言いたそうな魔女。妹はそれにも笑います。


「だって、泣いた後は笑わなくちゃだめなんだよ。ほら、おばあさんも笑わせてあげる」


言って、妹は魔女のお腹や顎の下など、妹自身が弱い場所をくすぐり始めました。

あらゆる苦痛や恐怖に苦しめられた魔女でしたが、くすぐりには弱かったようです。すぐさま、妹のように大きな声で笑い始めました。


「あっははは!!やめとくれ、くすぐったいよ!!」


魔女を笑わせながら、妹もけらけら楽しそうに笑っています。

そこで、妹は気付きました。夜明けの光に照らされて、魔女の頬にまた光るものがあったのです。


「おばあさん、また泣いてるよ?まだ笑わせたりないのかな」


それはもちろん、笑い過ぎて泣いているのですが、妹は冗談でそう言ったのです。それは彼女の兄がよく妹を笑わせては言う、言葉の真似っこでした。

魔女はひぃひぃ息を整えながら、その頬と目尻を拭います。


「馬鹿をお言いでないよ。…さて、どうやら私の負けだね。約束は約束だ。私の涙、お前にやろう」


そうして、最後に零れた涙をそっと柔らかな布に沁み込ませて小瓶に入れます。妹をそれに差し出して言いました。


「ほら、これを持ってお帰り。私は静かな生活が好きなんでね、あんたみたいに騒がしいのに居られちゃ困るんだよ」


放り投げられるように小瓶を渡された妹でしたが、魔女に押し返しました。癒しの薬を拒んだのです。魔女はとても驚きました。


「お前は何をしに来たのか、泣き過ぎて忘れちまったのかい?」

「ううん、私とっても良い事を思いついたの!それで、またおばあさんを笑わせられたら、その時に涙をもらうわ」


良い事を思いついたからついてきて。

そう言った妹は、何がなんだかわからない魔女の手を握ると、魔女を無理やり家の外に連れ出します。清々しいまでの晴天に、朝の光が輝いていました。



そうして…。ああ、見えましたか!?彼女がこの笑い祭の主役ですよ。彼女をたくさん笑わせた者に、聖女の秘薬が与えられるのです。


え?

そんなのただの祭りの演出だって?

いえいえ、それが本当の話なんです。嘘だと思うんなら、あなたも参加してみたらいいですよ。


深森の魔女の最後を聞いていない?ああ、そうでしたね。


魔女はその後、妹の思いついた“良い事”でよく笑うようになりました。

そうして、その魔女がよく笑ったその年は豊作になる、とまで言われるようになったのです。


そんなまさか?

ありえない?適当に話を終わらせるな、ですって?


何度も言いますが、これは本当なんですって。信じて下さい。

あぁ、そうそう。言い忘れてましたが、実は私。この祭が初めて行われた時の一番最初の優勝者なんです。


優勝の秘訣、伝授しましょうか?

旅人にひとしきり語って聞かせた青年は、冗談めかしてそう笑うのだった。

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わらい祭りのできたワケ 結佳 @yuka0515

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