第2話定番の設定でした

 俺が巨木と一緒に呪文を唱えると、頭の中の映像が更に悲惨(ひさん)なものに変わった。エルフ・ドリアード・エントを無差別に殺していた騎士たちを、天を覆い地を割くほどの雷撃が襲ったのだ!


 その光景は、映画で観た天地創世(てんちそうせい)の光景のようで、厚く空を覆った雲から無数の雷(いかづち)が大地を撃ち、大地には大穴が空き周囲に黒く焼け焦げた土埃(つちぼこり)を舞い上げる、思わず見とれてしまうような壮大なものだった。


 だが何故だろう?


 騎士たちが入り込んでいた森の木々や、攻防を繰り広げていたエルフたちには何の損害も見受けられない。騎士たちの甲冑が熔けるほどの威力なのに、常識では考えられないことだが、御都合主義の夢なら仕方がないのだろう。


「夢だと思っているのならそれで構わない、それよりこの戦いで死んでしまった森の人々を生きかえらせたいのだ、次はこの呪文を一緒に唱えて欲しい」


 まあ毒を食らわば皿までとも言うが、敵を全滅させた後は死んだ味方を生きかえらせたり、傷ついた味方を回復させるのは常識だ。俺の創作活動が見させた夢なのだとしたら、ここは最後まで夢を見て、目覚めた後で参考にすべきだろう。


「分かった、何と唱えればいいのだ?」


「ヨタキュアだ」


「了解した」


「「ヨタキュア」」


 これまたとんでもない魔法だ!


 千を超える頭の中の映像では、軽く万を越え2万3万に届くかもしれないエルフ・ドリアード・エントが生きかえっている。頭を潰されたり身体中を切り刻まれたりした者たちが、瞬く間に元通りに回復しているのだから笑ってしまう。


「英雄よ、我らを助けてくれた事、心から感謝する」


 何の自覚もないけど、相手が感謝してくれているのなら素直に受けた方がいいな。


「いえいえ、困っている人を助けるのは当然の事です、御気になされないでください」


「今の事態をよく理解していないから言えるのだろうな、だが信じていないとしても、今の状況を説明しなければなるまい」


 そうだな、細かい設定まで無意識に創り上げそれを夢として見ているなら、説明してもらって覚えておく方がいいだろうな。


「はい、出来れば説明して下さい」


「まず我らは敵に勝ち森を護るために貴方(あなた)を異世界から召喚した」


 定番の設定だな、だが小説にする場合は少しはオリジナリティを出さないといけないな。


「私の固有召喚魔法を使った召喚なので、私と貴方はデュオとして命と魔力を共有しており、1人が死ぬほどのケガを負っても病気になっても決して死なない」


 今まで読んだ作品の中には無かった設定だな、読んだことがあるのは、片方が死ねばもう1人も死んでしまうと言うものだったはずだ。


「それと敵を倒した経験値は折半となり、今帝国軍を斃(たお)した経験値も公平に折半されている」


 なるほど、止めを刺した者のボーナスはないんだな。


「それとこの世界には魔族・魔獣・霊獣・精霊が存在しているが、それぞれの領界を持っており別れて暮らしていた。だが人族が境界破りの魔法と召喚魔法を開発した事で、境界を越えた戦いがはじまってしまったのだ」


 なるほど、だがそれならこれまでは異種族間戦争がなかったのだな。


「いやそう言う訳では無い、極端に弱い種族と強い種族は境界を越えることができるし、2つ3つの境界にまたがって暮らしている種族もいるのだ」


 なるほど、そう言う設定なんだな。


「ところで英雄よ、何か希望はあるか? こちらの勝手で一方通行の召喚をしたのだ、出来る限り願いをかなえよう。このまま生命の森で暮らしてくれるなら、種族は違うがエルフやドリアードから妻を選んでくれて構わない」


 なんだと! 


 エルフやドリアードを妻に迎えられるなど最高の設定では無いか!


 最高の夢ではあるが、それを願ってしまうと目が覚めた時に小説の参考に出来ない。ここは苦渋(くじゅう)の決断をして、世界を旅してみたいと言おう。


「分かった、だが英雄殿1人を人間の領域に放り出す訳にもいかん。人間の領域には色々な種族が入り込んでおり、死ぬ事はなくともケガを負ったり病気になれば激烈な苦痛を感じるだろう。ここは私の分身体を一緒に旅させる事にしよう」


 俺と巨木の間に急に鉢植えが出現した!


「これは私の身体の一部を生命の森の土に植えた物で、これが側にある限り私はそなたのことを助ける事ができる」


 巨木は大袈裟(おおげさ)な表現をするが、どうみてもタダの鉢植えだ。恐らく挿し木と言う設定だろうが、結構しっかり根を張っているようだし、幹も太く葉も青々と生い茂っている。だが問題がこの鉢植えを持って旅するとなると、どう考えても邪魔でしかない。


「邪魔(じゃま)にするんじゃない! 私と貴方はデュオなのだぞ、助け合う運命にあるのだ!」


 う~ん、まあ鉢植えを持って異世界を旅する話は、読んだことも聞いたこともないからやってみるか。背中に背負うなり魔法で浮かせて自動追尾式にするなり、色々とやり用はあるかもしれない。


「うむ、そうしてくれ! 何か問題が起こったら自分で空を飛ぶから、それ以外はデュオとして持って旅してもらいたい。そうと決まればさっそく旅に出ようではないか! おっとそうだ、服装をこの国風に変えておこう、故国のままの服装では目立ちすぎるからな」


「それは助かるが、どうやって俺を着替えさせたんだ?」


「まあ深く考えるな、魔法で脱がせて着せたのだ」


「羨ましいような、恥ずかしいような、何とも言えない魔法だな」

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