第4話騎士の館

 お礼だ歓迎だと言われても、有無を言わさず左右の腕を掴まれて運ばれては信じられない。逃げる隙を探しては見たが、完全武装の騎士と兵士に前後左右を囲まれてはどうしようもない。それにしても、最初はテレビか映画の撮影と思ったが、やはり狂信者の集団かもしれない。


 着ぐるみだと思った最初の熊は本物だったし、山奥とは言え2頭も熊が出てくるのは異常極まりない。騎士の館で歓迎すると引っ立てられている途中で、殺した熊を回収していったが、撮影の為に熊を殺したりしたら批判でネットが炎上するだろう。


 兵士の会話を聞いていると、殺した熊は食べると言っているし、撮影では無く狂信者の集落が出来た可能性が高い。だがここはそれなりに有名な廃墟スポットだ、ここまでこだわった集団が造る本格的な騎士の館なら、完成前に登山者に発見されているはずだ。


 信じたくない話だが、アニメや小説のように転移した可能性もある。転移と言ってしまうと嘘臭いが、神隠しと考えれば大昔からある話だ。ほとんどは家出や誘拐(ゆうかい)、人身売買だったのだろうが、中には本当に異世界に迷い込んだ事件があったのかもしれない。


 最初に騎士たちと出会った場所越え、30分ほど歩いたところに、以前来た時にはなかった防壁がそびえていた!


 石造りの城壁ではないが、切り倒した木を使った高さ10mほどの防壁があり、その手前には小川を活用した濠(ほり)があった。しかも防壁の上はそれなりに幅があるようで、見張りの人間が立っている。


 騎士の合図で門が開けられ、俺は引っ立てられるように中に入れられた。防壁の中は、30軒ほどの粗末な小屋が立ち並んでいたが、中央には石を積み上げた館が建っている。恐らくは騎士の館なのだろうが、城館と言うよりは、小説で読んだことのある荘園領主のマナーハウスと言った方がいいと思う。


 館にはそれなりの防御力がありそうで、全領民と全収穫物を護るために、それらを収容保管できる広さはあるようだが、中世の有名な城とは雲泥の差がある。そこに無理矢理連れ込まれた上に、ホールのような場所で椅子に座らされ、見張りをつけられ放置されてしまった。


 小一時間も放置された後で、赤毛の美しい大女が入って来た。雰囲気と身長からさっきの騎士だと思うが、優しさのかけらもない眼つきが怖い。


「さて、まずは妹を助けてくれた事の礼を言っておこう、だから何があっても命は取らないと約束する。その上で聞きたいのだが、貴様は何者で何の目的があって我が領地に押し入ってきた」


 駄目だ、舌が凍り付いたようで何も話せない!


「リンリンリンリン」


 姉ちゃん!


「姉ちゃん助けて!」


 付けっぱなしのイヤホンから、龍子姉ちゃんだけの呼び出し音が流れた途端、全ての呪縛(じゅばく)が解けて思わず叫んでしまっていた。

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