第3話誤解です

 駄目だ!


 メッチャ怒ってる、さっきの熊より怖い!


 何か言わなければいけないけど、舌が凍り付いたようで何も話せない。このままでは殺されていまうのは分かっているのに、逃げ出そうにも足が全く動かない。ああもう終わりだ、甲冑姿の奴が剣を持って近づいて来る!


「おねえちゃん、だめ!」


「なんだと? おまえを攫(さら)った男を何故庇(なぜかば)う?」


「おにちゃんは、わたしをさらってないよ、くまからたすけてくれたんだよ」


「なに?!」


「姉上、確かにこの辺りには熊の足跡があります」


 俺には騎士しか目に入っていなかったが、視線を動かすと周囲を囲まれているようだ。首が動かないから、動かせる眼の範囲しか確認できないけど、5人以上はいるようだ。


「おにいちゃんすごいんだよ! 大きなおとのするまどうぐと、大きくなるぼうのまどうぐで、くまをおいはらったんだよ!」


「なに? さっきのキテレツな大音はこの男が出したものか? 本当かお前!」


 駄目だ、何か言わなければいけないけど、しゃべれない。


「姉上、この者の服装は怪しい限りですが、魔道具の研究に打ち込んだ世間知らずと考えれば納得出来ます。それにこの無様な姿と、さっき出会った時の逃げっぷり、荒事(あらごと)に慣(な)れているとは思えません」


「ふむ、この怯(おび)え振りを見れば、確かに初陣を迎えた者と同じだな」


「勇気を振り絞ってビアンカを助けてくれたのでしょう、礼を言わねばローゼンミュラー家の名誉にかかわると思われます」


「ふむ、貴君は妹を助けてくれたのか?」


 動け!


 しゃべれ!


「姉上、今は話すことも動くことも無理なようです」


 この騎士は女なのか?


 助けた少女は妹で、間にもう1人(ひとり)兄弟姉妹(きょうだい)がいるんだな。声からすると間も女だろうが、そいつが1番冷静で賢そうだ。騎士姿の姉は駄目だ、馬鹿なのか感情的なのか、下手に話すと殺されてしまう。


「ふむ、ではどうする?」


「ビアンカの話では、少なくとも2つは熊を追い散らせる魔道具を持っているようです。御礼もせねばなりませんし、ここは館に御迎えしなければいけません」


「難しい事は私にはわからんが、バルバラがそう言うのならそうしよう。貴君は妹の恩人だ、よって我がローゼンミュラー家の館に迎えて歓迎しよう」


「バルドゥイーン、ベルンハルト、この方を支えて差し上げろ」


 バルバラと言う女の指示通り、2人が左右から俺を支え上げて運ぼうとする。その御蔭でやっと手足が動いたが、もう逃げようがない状態だ。胸ポケットに入れているスマホを使って、龍子姉ちゃんに助けを求めるしかない!

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