お前ら異世界でヒロインに彼氏いるのは許せないんだろ?

ちびまるフォイ

彼氏が消えれば俺がモテる。

「やっ、やめてください……!」


ひと目もつかない裏通りではうら若き乙女が

舌なめずりをした男どもに囲まれていた。


「へへへ、姉ちゃん。この街を誰が守っていると思ってんだ?」

「お前ら平民が生活できるのはひとえに俺ら近衛兵団のおかげだろう」

「だったら、少しでもその労をねぎらってくれてもいいじゃねぇか?」


汚らわしい男の手はするすると女のスカートの中へと這いよってゆく。

掴まれた腕から伝わる握力が抵抗する意思をうばう。


「なぁに、すぐ終わる。ちょっと我慢するだけさ……ぐへへへ」




「市民を守る兵士が、市民の心を傷つけるってのはいいのかね?」



「だ、誰だ!?」


「フッ、ただの通りがかりの男だよ」


「おい、相手はひとりだ! やっちまえ!!」


屈強な男たちは勢いに任せて殴りかかった。

細身の男は手元に不思議な本を出すと小声で唱えた。


煉獄鎖ブレイズ・チェーン!!」


「ぐぉっ!!」


男たちは炎で形作られた鎖で巻かれ床に倒れる。

炎の熱でエビのように体を反らせながら熱さにもんどり打った。


「ひいい!! 許してください!!」


「フッ、早く消えるんだな」


男が魔法をとくや兵士たちは逃げていった。

残された女は目をうるませて感謝の言葉をつげた。


「ありがとうございます。なんてお礼をすればいいか……。

 私にできることでしたらなんでもお礼します。言ってください」


「言ったはずですよ。俺はただの通りがかりだと」


「でしたら、私の家に来てください。ごちそうします!」


「……家に?」


男はその言葉にぴくりと反応しニヤニヤを噛み殺して女の家についた。

テーブルには豪華な料理が並び、テーブルを挟んで女と。


その彼氏が座った。


「紹介します。こちら私の彼氏です」


「彼女から話は聞きました。危ないところを助けてくださってありがとうございます」


「お、おう……か、彼氏?」


「はい」


「ふたりは付き合ってるの……?」


「ええ、僕たちは昔から幼馴染で家が近かったんです。

 最初は中のいい友だちくらいな存在だったんですが、

 しだいに彼女と一緒にいる時間が一番居心地がよくなって……」


「もうっ、ケンちゃん……///」

「ぼくはいまでもそうだよ……///」


「……」


男はそっと家を出ると、可及的速やかに大木を見つけて頭を打ち付けた。



「 彼氏いるんかーーーーい!!!! 」



大木の幹には先程のカップルの名前が相合い傘で彫られていた。


「なんでだよ! 俺じゃないのかよ!

 家に招待するとか完全に期待しちゃったよ!!

 しかも彼氏めっちゃいいやつじゃん!! ちくしょーー!!」


男はこの世界にやってきた転生者であり世界を救う使命がある。

というのは建前で、ハーレムを作りきゃいきゃい騒ぎたいのが目的だ。


夏の海に来る男子と全く同じ思考でやってきている。


「海に行きたい」とはすなわち「女にもてたい」という

浅ましい欲求をカムフラージュするだけの男のせこいプライドなのだ。


「いや、ここで悲観することはない……。

 余裕がない男はモテないと聞いたとこがある。

 この先まだまだ女の子と知り合えるイベントは用意されているはずだ!」


男はふたたび女の子と偶発的に遭遇するイベントを待つために魔物を倒すことに。

まずは仲間から異性を意識してもらおうと、ギルドで女ばかりを仲間に加えた。


「というわけで、これから俺たちはエルフの森を襲っている

 ゴブリン討伐の任務を受けるわけだが……」


「まーくん、行ってくるね」

「あまり遅くなるようなら助っ人に行くからな」


「みーちゃん、心配だよぉ……」

「ゆうくんはいつも甘えん坊なんだから……」


「……あの、みなさんもしかして彼氏とかいらっしゃる?」


「「「 当たり前じゃない 」」」




「やっぱり冒険やめる」


女だらけのメンバーを構成したにも関わらず、

仲間の横には別のパーティにいる彼氏が常にいる。


男は自分が煉獄鎖ブレイズ・チェーン(笑)にでも巻かれたように辛い状況だった。


「もうひとりでいくもん……」


下手に女を連れていけばそれこそ「そっち目的」だと察されかねないので

男は安いプライドを守るために単身でエルフの森へと向かった。


「ゴアアアア!」


「出たなゴブリン! やっつけてやる!!」


「ゴアアアア?」


「ちょっ、その場所だとエルフの森から見えないから

 もうちょっと街の方へ来い! この野郎!」


「ゴアアアア!」


「きゃーー! ゴブリンよ!」


「ようしこれで俺が助けたことが見える! やっつけてやるぞーー!」


ゴブリンを激闘の末にやっつけた男は美人ぞろいのエルフたちにいたく感謝された。


「いえ、俺は仕事をまっとうしただけです(チラチラッ」


「あなたのような強くて素敵な人間がいるなんて……///」


「フッ、そんなことはないですよ……!(チラチラッ」


「まるで、私の彼氏みたいです」

「えっ」


エルフの後方から屈強な男がやってきて、エルフ女の肩を抱いた。


「大丈夫だったか? すまない、村の男達で裏側を見張っていて遅くなった」

「ううん。大丈夫。この人が守ってくれたから」

「どなたか存じませんがありがとうございます。おかげで助かりました」


「ああ……うん……か、彼氏?」


「はい」


「そ、そう……ソウダヨネー……」


男は帰り道、血の涙を流して帰った。


「なんでだよ! どうしてみんな彼氏持ちなんだよ!!

 もっと俺に優しい世界にしてくれよ!! ロマンス始まらねぇよ!!!」


男が大声を出すものだから森の草陰から小さな半獣人が出てきた。


「こども……?」


半獣人の子供には魔力制御の首輪がされている。

その小さな少女が奴隷として扱われていたことを物語っていた。


首輪を外してあげると半獣人の少女は無邪気な笑顔を見せた。


「おにいちゃん、ありがとう」


「こっ、これは……!!」


その無垢な笑顔に男の心は射抜かれた。

今まで彼氏持ちと聞かされ遊んでいた心に染み入るような清流。

穢れを知らないこの少女の好意が男を癒す唯一のものだった。


「わたしのかれしのくびわもとってあげて」


草陰から今度は半獣人の少年が出てきた。


「この子にも彼氏がいるのかよぉぉぉ!!!!」


男は悔しさに奥歯を粉砕するほど噛み締めながら首輪を解除した。

2人は楽しそうに帰っていくと、男は地面にうなだれた。


「なんでだよ! 前世でモテない生活を送っていて、

 転生してからの第二の生活は失われた青春を取り戻すはずだったのに!!

 なんでどいつもこいつも彼氏がいるんだよぉーーーー!!!!」


『きこえますか……』


「はっ……この声は……!?」


『この声が聞こえますか……?』


「まさか……!?」


『私はアレクサ。今、あなたの頭に直接話しています……』


「アレクサ、教えてくれ。俺はどうすれば理想の生活を手に入れられるんだ!

 世界を平和にするまで俺は誰からも言い寄られないのか!?」


『仮に世界を救ったとしても、あなたは英雄として祭り上げられるだけで

 あなたの求めているようなキャッキャウフフな生活は望めないでしょう……』


「いい人止まりかよ! くそっ!! もうどうしようもないじゃないか!!」


『諦めることはありません。あなたには私が施した過去に戻る能力があるはずです』


「過去に戻ってどうすればいいんだよ……。

 戻ったところで、彼氏がいるのは変わらないじゃないか」


『私の力で彼氏という関係を抹消するのです』


「そ、そんなことができるのか!?」


『最近のアップデートでできるようになりました。さぁ命じてください』


彼氏持ちという設定そのものを消すことができれば、

自分が恋愛対象として入る余地がある。

ズボンを脱いで待機している紳士諸君の希望にも答えられるような展開があるはずだ。


「OK、アレクサ! この世界から彼氏を消して!!」


『御意』


彼氏の設定を消すと男はすぐに過去へと戻った。

戻った先では裏路地で女性が男に絡まれていた。


「やっ、やめてください……!」


「なぁに、すぐ終わる。ちょっと我慢するだけさ……ぐへへへ」


男はさっそうとモブを処理して感謝パートまで入る。


「ありがとうございます。なんてお礼をすればいいか……。

 私にできることでしたらなんでもお礼します。言ってください」


「先に聞くけど、君は今彼氏がいるのかな?」


「え? いませんけど……」


「ようし!! それじゃ君の家に行ってごちそうをいただこうか!!!」


この場合のごちそうが食べ物を指しているのかは謎である。

男はご機嫌で助けた女の家へと招待された。


助けた亀に龍宮城へ案内される浦島太郎のような心持ちである。


家をあけると、にこやかに女が出迎えた。



「ご紹介します。こちら、私の 夫 です♪」



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