第十二話 本当の気持ち

美海said

 ある日の放課後の事だった。

部活が終わって、一人で帰ろうと廊下を歩いていた時、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「水川さん…」


振り返ると、クラスメイトの加川絵里が立っていた。

「加川さん…どうしたのよ」 


彼女は小柄な体をびくっと震わせた。


「あ、あの…ちょっと話が合ってね」


そういうと彼女は、手招きして誰もいない図書室へ私を連れて行った。


「あのさ、話って———」

「水川さんっ」


彼女が、らしくなく大きな声で私の言葉を遮った。


「せ、芹沢君と付き合ってるって、ほんとなの?」

そうだけど…、と返すと、彼女は一瞬悔しげな表情を見せた。


「どうせさ、遊び半分でしょ?芹沢君の事なんて、どうでもいいって思ってるくせに」


「は…?」


何言ってんのこの子、マジ意味わかんない。

急にそんなこと言われたって..


「で、結局何が言いたいの?」


複雑な表情をした彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「私ね、付き合ってたの―――芹沢君と」


しんとした図書室に、恵理の声はすっと消えていった。


それと同時に、自分の心まですっと沈んでしまったようで、美海は何も言えなかった。


「私は本気で芹沢君の事大好きなの!」

彼女は早口でまくし立てるかのように言った。

「なんで芹沢君は―――」


「遊びで付き合ってるような私と、って言いたいの?」


彼女は再びびくっと体を震わせた。だが、はっきりと低い声で言った。


「そうだよ…。でさ、水川さんはどうなの?芹沢君の事、どう思ってるわけ?」

「そ、それは…」


口ごもる私に、彼女は言った。



「芹沢君の事好きじゃないなら、別れてよ」



ずきん、と心に太い針が刺さった気がした。


「わ…私は―――———」


ぽろり、と涙が頬を伝って落ちた。


「芹沢君が好きなの‼でも、芹沢君は―――」


そこまで言うと、私は図書室を飛び出した。

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