半熟地球儀

小山らみ

半熟地球儀

「はい。自分でむいて食べなさいね」

 ママがゆで卵を子どもにわたしました。


 その子はママといっしょにゆで卵をむいて食べたことがあります。

 ゆで卵をかるくテーブルでたたいて殻全体に細かいひびをいっぱいつくるときれいにむけるのよ。

 そのときは、その子もママの真似をして、上手にゆで卵をむきました。


 その日は、ママはゆで卵をわたすとまたキッチンに行ってしまったので、ひとりです。


 手わたされたぬくぬくのゆで卵。ママはいつもその子が好きな半熟に卵をゆでてくれるのです。


 食べたい気持ちがはやり、その子は卵をテーブルでこんこんして、ひとつひびが入ったら、すぐそこからむきはじめました。

 ところが。

 卵の殻に白身がひっつき、大きくべろんともげてしまった。


 しまった、と、その子はあせり、はやく卵をむいてしまおうとする。


 するとほうぼうで殻に白身がひっついてはがれ、むかれたゆで卵の表面はでこぼこになってしまいました。


「うわあ、しっぱいだ……」


 その子は自分がむいたゆで卵を見て思った。


 もう卵型ですらなくなったでこぼこ白身のゆで卵。見る人によってはこう言ったかもしれない。

「わあ、これ、なんだか地球儀みたいだ」

 でも、その子は、まだ地球儀を見たことがありませんでした。


 ママにしっぱいしたのを見られる前に食べてしまおう。


 あたたかくふにゃふにゃした、生まれたての赤んぼう地球のようなゆで卵にその子はかぶりつこうとし、指に力が入りました。


 そのとき、ゆで卵の白身に裂け目ができ、おいしそうな黄身がどろりと流れ出したのです。


 それからあとのことはよくわかりません。


 地球に裂け目ができ、どろりとしたものが流れ出て、この世はゆで卵どころではなくなったからです。


 この出来事が起こり得る日はまだ来ていません。

 その日その子がゆで卵を上手にむければ、この未来は回避できるのです。

 神さまはゆで卵をきれいにむくことを期待しています。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

半熟地球儀 小山らみ @rammie

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ