君のために

 ……なんだろう。


 なぜだか体がひどく重く思うように動かない。


 それに顔のあたりにパタパタと何かおちてきているような……


 雨?  


 雨というのはこんな狭い範囲に降るものだったのだろうか。


 そうだとしてもどこか暖かいような


 そういえば何か遠くから声が聞こえる


 でもこんな俺に声をかけてくれる人間なんて


 いたんだったな

 一人だけ、とても大切な女の子が


 目を開けたとき、君がそばにいてくれたらいいな







 目を開くと泣き腫らした目で尚も涙を流しながらこちらを覗き込んでいる白がいた。

 なんで泣いてるんだろう、どこか痛いのかな

 それとも何か悲しいのかな

「……白?どうしたの?痛い?」


 そんな問いかけを無視して白は叫ぶ。

「ばか!あんな無茶して倒れて死んじゃったらどうしようって思ったじゃない!」


 ……もしかして白は俺のために泣いてくれた?

「ごめんね、白。心配かけた」



 白はそれに対しても答えず少しすると溜め込んでいたものが決壊したように言葉を放ち始めた。

「………私もう争いごとなんてやだよ!巻き込まれるのも!それを助けようと誰かが傷つくのもやだ!怖いの!戦争が!当たり前のように流れていく血も!命が簡単に無くなっていくのも見たくないよ!もうやだ!いやなの!」


「白……?」

 白の言っていることにイマイチ実感がわかずにいる。が、それでも白は哭き叫ぶ。

「私の力のために誰かが争って、力なんて願ってもない人が簡単に死ぬ!私にはそんなふうにされる価値なんてないのに!戦争を止める力もない、こんな私のために!もうやだよ……!私は……誰にも争って欲しくないよ……」

 そんな白を見ていて自分も同じように心が痛くなる。

 白が吐き出した感情は自分の『白の涙なんて見たくない、笑っていて欲しい』と願うものと近しい感情なのだろう。



 そしてそれはきっと自分も同じだ。半魔として忌われるほどの力はあっても今の白を救うことは出来ない。


 でも、だからといって何も出来ないかと言われればそうとも思わなかった。


「白、よく聞いて欲しい。俺も同じだ。白に笑っていて欲しい。白が俺にしてくれたように俺も白に手を差し伸べたい。

 だから白が戦争が怖くて怯えるなら、俺がそれがなくなる世の中にする。白が見たくないものは全部変えていつか白が心から安心して過ごせるような世界にする。ずっと忌まれてきた力を俺は白のために使いたい。だから……」

 俯き、黒の言葉を遮って言葉を放つ。



「でも、そんなこと黒にだってできっこない!殺されちゃうかもしれないしまた今回みたいに……!」



「そうだね、俺は弱い。でも白がいたら俺はいくらでも強くなるよ。強くなってずっと白と一緒にいるよ。時間はかかるかもだけど白の恐怖は俺が全部拭うから」



 それを聞いて白は顔を上げる。今度はその顔が俯くことは無い。

「ほんとに?最後まで私とずっと一緒にいるって、絶対死んだりしないって誓える?」



 黒は少し微笑んでゆっくりと言う。

「うん、誓うよ。最後まで、ずっと白の隣にいる。居なくなったりなんかしない 」



 最後に確認するように白が問い掛ける。


「きっと簡単には出来ないし、たくさん時間もかかっちゃうよ?」

 それに対して黒はゆっくりと頷いて答える。

「うん、白が変えてくれた俺の人生だから、白のために使いたいんだ。まぁ、白が許してくれるならにはなるけど……」

 白は当然の如く満面の笑みで言葉を返す。



「うんっ!許す!」






 月明かりの下、2人の物語はここから始まった

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