猫と小魚たち

雨世界

1 猫と小魚たち

 猫と小魚たち


 プロローグ


 ……ねえ? 君たちはどこに向かって泳いでいるの?


 本編


 猫と小魚たち


 ある日、一匹の猫が、真っ暗な海のそこにある世界の中に迷い込んだ。

 そこにはたくさんの不思議な小魚たちが、暗い海の中を(どこかに向かって)泳いでいた。ずっと上にある、水面と思われる場所から、かすかに差し込む太陽の光によって、猫はその小魚たちの泳いている姿を、その二つの瞳で、捉えることができた。

 それともう一つ理由がある。

 それは、その不思議な小魚たちが、不思議な白い色に発光する魚たちだったからだ。


「ねえ、君たちはどこに向かって泳いでいるの?」

 猫は聞いた。

 猫は孤独だった。

 この世界に猫は、猫一匹しかいなかったからだ。

 でも、小魚たちはたくさんの仲間たちがいた。

 小魚たちは、仲間たちと一緒に暗い海の中を泳いで、猫からは目に見えないような、そんな遠い世界の中に猫をこの暗い海の底において、移動しようとしているようだった。


「星に向かって泳いでいるの」小魚たちは猫に答える。

「星に向かって?」

「そう。ずっと、ずっと遠くにある星に向かって、泳いでいるのよ」と小魚たちは猫にいった。

「どうしてそんな遠いところに行こうとするの?」猫はいった。

「どうしてって、『私たちはずっと同じ場所には、止まっていられないからだよ』」と小魚たちは言った。


「じゃあ、僕もそこに連れて行って。一人はいやだよ。寂しいよ」猫は言った。

「それはだめだよ。だって君は、海の中をこんなに自由に、私たちみたいに、泳ぐことができないじゃないか?」小魚たちは言った。

「あ、待ってよ!」

 そんな猫の言葉も聞かずに小魚たちは泳ぎ続けた。

「さよなら。また、どこかで会おうね」

 小魚たちは猫に言った。


 それからそのたくさんの白く光る不思議な小魚たちは猫を暗い海の底において、そのずっと遠くにある星に向かって、移動をして、猫のいる世界の中からみんないなくなってしまった。

 そして猫は、また孤独になった。

 孤独になった猫は暗い海の底で一匹で泣いて、そしてやがて泣き疲れると、猫はその場で丸くなって、やはり一匹で眠りについた。(眠りは、いつだって孤独だった)


 その眠りの中で、猫は幸せな夢を見た。

 自分が幸せな夢を見た、と言う感覚は確かに猫の中に残っていたのだけど、猫は残念なことに、その幸せな夢の内容を思い出すことができなかった。


 猫が目をさますと、そこは電車の中だった。

 猫はそのままその電車に乗って、小魚たちがずっと遠くにある星の光を目指していたように、自分は自分と同じ猫たちがたくさんいる、猫の国を目指して、その電車に乗り続けることにした。


 真っ白な電車の車内にある窓の外に見える風景は青色だった。

 空の青と、海の青。

 世界は全部、青色に染まっていた。


「次は、猫。猫の国に止まります」

 真っ白な電車の中で、そんな放送が電車の車内の中に聞こえてきた。


「あ、降ります」

 猫は言った。(この電車ではそういうのが、停車のルールだった)


 すると真っ白な電車は猫の国の駅で止まった。

 猫はそこで、荷物の真っ白なトランクを「よいしょっと」と言って持って、駅に降りた。

 猫が駅に降りると、電車はやがてまた静かに青色の世界の中に出発していった。


 猫の国の駅で降りたのは猫、一匹だけだった。

 だから猫の国の中でも、やっぱり猫は、ずっと孤独なままだった。


 そのことを知って、猫は(駅のホームの上で)泣いた。


(誰かと手を繋ぎたい、そんなことを猫は思った)


 猫と小魚たち 終わり

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