後日談 異世界少女たちに狙われる元勇者

 ティル・ナ・ノーグの魔王が何故か日本で復活した、あの事件から丸一日経った月曜日。

 物凄く疲れて動けない……と思いきや、フローラの回復魔法のおかげで、日曜日も今朝も普通に起きて登校出来てしまった。

 しかし、楓子は魔王に身体を乗っ取られ、和馬も操られて居たし、陽菜も攫われていたので、少しでも様子がおかしければフォローしてあげないといけないと思っていたのだが、


「キャンベルちゃーんっ! おっはっよー! 今日も可愛いねー!」

「……ソウタ、おはよう! この前は大変だったねー」

「無視っ!? キャンベルちゃん、君を守るナイトはこっちだよっ!」


 和馬はいつも通りで心配いらないようだ。

 楓子は魔王に乗っ取られている間の記憶が無いみたいだし、後は陽菜だけど……珍しくマリーが陽菜の席まで移動して、何やら喋っている。

 何となく嫌な予感がしたので、会話へ混ざりに行ってみる。


「陽菜、マリー。おはよー」

「颯ちゃん、おはよー」

「ソウタ、おはよ。そうだ、ソウタも知って居たら教えて欲しい。よく分からない事があって、ヒナに聞いたんだけど、教えてくれない」


 陽菜に質問? 何だろうか。

 一先ず、俺に分かる事ならと回答した所で、


「マリーちゃん。颯ちゃんに聞いても良いんだけど、出来れば小声でね」


 何故か陽菜がマリーに釘を刺す。

 チラッと陽菜の目を見ると、一瞬目が合い、すぐに逸らされてしまった。

 これは、マリーの質問について陽菜は答えられないという事か。


「あのね。この前、フローラがソウタと子供を作るって言っていたけど、子供ってどうやって作るの?」

「それ、マジ……の質問だよなぁ」

「何が? ねぇ、その感じからすると、ソウタは知っているんだよね? ソウター、ウチと子供作ろうよー」


 これは……困った。

 フローラの言う、次の勇者を育てるって事も大切なんだろうけど、マリーが変な事を覚えてしまった。

 この辺りの知識をきちんと学んで、羞恥心もセットで身につけてくれると助かるんだけど。


「陽菜。どうしよう」

「わ、私に聞かないでよー!」

「そうだ。わかった。ソウタとヒナは子供の作り方を知っているみたいだから、二人で作ってよ。ウチはその様子を見て学ぶからさー」


――ぶはぁっ!


 ダメだ。マリーにちゃんとした教育をしなければ。

 前に俺のお宝本を読まれて、ちゃんと教えるって言ったけど、結局出来なかったからな。

 とはいえ俺には出来ないから、陽菜は……無理か。俺の考えを察したのか、顔を真っ赤に染めた陽菜が、涙目で首を振って居る。

 陽菜はこういう話は苦手だもんな。

 だったらエレンは……何か極端な事を教えそうで、マリーの教育に悪い気がする。

 とはいえ、流石にこんな事を先生に話すのも違う気がするし……


「でしたら、私が協力しますよ?」

「おぉ、フローラなら任せても大丈夫だな……って、どうして教室に居るんだ!? それに、その格好は!? 何でこの学校の制服を着ているんだっ!?」

「ふふっ。ちょーっと朝からいろいろありまして。すぐに分かりますよー」


 どこから現れたのか、長い金髪を真っ直ぐに降ろした巨乳美少女フローラがすぐ俺の隣に立っていた。

 クラスメイトたちも気になるようで、視線が集中しているのだが、


「それより、ソウタ様っ! マリーさんに教えて差し上げる為に、早速実践いたしましょう!」

「実践……って、するわけないだろっ! あと、胸を押し付けるなっ!」

「良いじゃないですかー。私とソウタ様の仲ですしー」


 フローラが見せびらかすようにして、抱きついてくる。

 やめて。これ以上目立たせるのはやめてくれ。

 マリーとエレンのおかげで、ただでさえ俺はヒンシュクを買っているんだ。主に男子生徒から。


「ちょっと、フローラッ! どうして貴方がここに居るのよっ!」

「どさくさに紛れて、エレンまで抱きつくなっ!」

「えっ!? じゃあ、ウチもソウタにくっつきたい!」


 ティル・ナ・ノーグの三人に囲まれ、揉みくちゃにされていると、


「ダメーっ!」


 突然陽菜が大きな声で制止する。

 もしかして、陽菜が嫉妬してくれたのだろうか。

 ちょっと期待しながら陽菜の様子を伺っていると、


「そ、その……そ、颯ちゃんが痛そうだったから。そうよ。そういう無理矢理は良くないのっ!」


 どうやら俺の身を案じてくれただけだったらしい。

 いや、そういう気遣いも十分嬉しいんだけどね。

 ただ、もしも嫉妬とかだったら、もっと嬉しかったなーって思っただけで。


「ほら、マリーさんもエレンさんも。ヒナさんの言う通り、ソウタ様から離れてください」

「いや、フローラも離れろって」

「えぇー。私は最初からソウタ様のお傍にいたのにー」


 俺の腕に自らの腕を絡ませたまま、マリーとエレンに指示をしていたフローラへ離れるように告げると、唇を尖らせつつ俺の言葉に従う。

 フローラもエレンと同じく、ティル・ナ・ノーグに居た頃と少しキャラが違っているような気がするんだが、気のせいだろうか。

 そんな事を考えていると、


「はーい、席に着いてくださーい。ホームルームを始めますよー」


 担任の先生が入って来たのだが、何やら声が違う気がする。

 席に戻りながら先生に目を向けると、


「……って、女神様っ!?」


 俺を日本に戻してくれた女神様がスーツ姿で教卓に立って居た。


「まぁ、ハヤカワ君。先生が綺麗だからって、女神様だなんて。年上の女性が好きなのかなー?」

「えっ!? えぇっ!?」

「それより、今日は転校生を紹介します。フローラさん、自己紹介を」


 担任が金髪美人の女神様になっているのに、クラスの誰一人として突っ込まないし、フローラはフローラで普通に挨拶しようとしているし。

 驚いているのは俺とマリーとエレンだけ。

 自席に戻って呆気に取られて居ると、


「初めましてっ! フローラ=ラザフォードですっ! 好きな人はソウタ様で、嫌いな人は悪い人ですっ! よろしくお願いしますっ!」


 フローラが満面の笑みを浮かべて俺を見つめている。

 何が起こったのか分からずにフリーズしてしまい、暫くしてから陽菜に目をやると、頬が膨れて少し不機嫌そうになっていた。

 残念ながら、俺が陽菜に告白出来るのは、まだ時間が掛かりそうだ。

 せっかく日本へ帰ってきたんだから、もっと陽菜とイチャイチャしたいのにっ!


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幼馴染の為に魔王を倒して日本へ帰ってきたのに、異世界少女たちが俺の恋人ポジションを狙ってやって来る 向原 行人 @parato

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