第20話 妹と遊ぶ元勇者

「私はまだ第一夫人を諦めてないんだからねっ! 第二夫人は、ヒナって娘とマリーちゃんで争えば良いのよ」


 帰り際に、エレンからもマリーと同じ様な事を言われながら、二人の家を後にした。

 しかし、マジか。

 一夫多妻制だなんて、どこの大富豪の話だよ。

 陽菜、マリー、エレンとそれぞれ二人ずつ子供が出来たとして、三人の妻と六人の子供を養う……無理無理無理無理。

 というか、日本では法律も世間も許してくれないっての。

 だけど、まさかティル・ナ・ノーグが一夫多妻制の文化だとは思わなかった。

 向こうでの両親は、普通に父親と母親が一人ずつだったし、隣に住んでたマリーの両親だって父親と母親が一人ずつだったから、日本と同じだと思っていたよ。

 まぁ、何が何でも日本へ帰るつもりで、ティル・ナ・ノーグで結婚するとか考えた事すら無かったからな。興味が無ければ誰かに聞く事もないし、こっちみたくネットで調べたりも出来ないし。


「……って、そうだ。思い出した」


 陽菜が言っていたティルナノーグ・オンラインというゲームについて、スマホで調べてみる。

 どうやら、パソコンやスマホ、コンシューマゲーム機など、多数のプラットフォームからプレイ可能な大規模なVRMMOだったらしい。

 だったらしい……というのも、理由は分からないが既にサービスが終了しており、個人のブログなどから大よその内容を把握しただけだ。

 しかし、ゲーマーという訳でもない陽菜が知っているくらいなのだから、かなり有名なゲームなんだろうけど、俺には全く聞き覚えが無いんだよな。


「ただいまー」

「お兄ちゃん、お帰り。随分と遅かったけど、何をしてたのー?」


 楓子が出迎えてくれたけど、何故か俺を見る目が、旦那さんの浮気を疑う奥さんの目……みたいになっている。

 とはいえ、ドラマやアニメでしか見た事がないから、的確な表現かどうかは分からないけれど。


「何にもしてないよ。二人に、日本の家電の使い方を教えていたんだ」

「そっか。まぁ楓子としては、お兄ちゃんが通報されなければ、それで良いんだけどねー」


 楓子がからかう様にニヤニヤと笑みを浮かべながら、リビングへと逃げて行った。

 だからエレンは同い年だし、そもそも何もしないっての。

 とりあえず自分の部屋へ戻ろうとして、リビングの前で足を止める。


「楓子。そういえば、楓子って、結構ゲーム好きだよな」

「うん! お兄ちゃんも一緒にやる? やっちゃう? 何でも良いよー。格闘ゲームでも、レースゲームでも、テーブルゲームでもっ!」

「近い近いっ! ゲームってだけで、そんなに目を輝かせるなよ」

「だってー。楓子が小学生の頃は、いっつも一緒にゲームして遊んでくれたのに、お兄ちゃんったら一年くらい前から全くしてくれなくなったもん」

「そりゃ、高校受験があったからな」


 ゲームの話をした途端に、楓子が俺に抱きつく勢いで近寄って来た。

 しかし、言われて思い返してみれば、確かに中学二年生くらいまでは、結構一緒にゲームで遊んでいた気がする。

 期末試験を乗り越えて、夏休みになったら時々また遊んであげようか。

 そんな事を考えていると、楓子が「今から一緒にやろーよ」と、以前のように俺の腕へ抱きついてきた。

 ……楓子には悪いが、抱きつかれた時の感触は、マリーの圧勝だな。


「って、違う。楓子、ティルナノーグ・オンラインっていうゲームを知ってるか?」

「えー、お兄ちゃん。久しぶりだし、一緒にゲームしようよー」

「楓子も期末試験前じゃないのか?」

「大丈夫、大丈夫。楓子はお兄ちゃんに似て、成績優秀だから」


 楓子が無い胸を逸らして自信たっぷりに話してくるけれど、試験についてはむしろ俺の方がヤバいのだが。

 とはいえ、楓子がここまで言ってくるので、少しくらいは相手をしてあげるべきだろう。


「じゃあ、一時間だけな。だけど、その前にティルナノーグ・オンラインの事を教えてくれよ」

「んー、それって、TOって略されるオンラインゲームの事だよね?」

「……たぶん。もうサービス終了になってるみたいだけど」

「楓子はやった事がないけど、凄く面白かったって話は聞いた事があるよー。でも、魔王を倒して平和になった世界で、復活した魔王が不意打ちを仕掛けてきて心が折れるって、未だにネットで話題に上がるみたいだねー」

「ふーん……って、楓子はやった事がないのか」

「無いよー。だって、その頃の楓子は小学生だもん。オンラインゲームはダメだって、お母さんに止められちゃったし。ねぇ、それよりお兄ちゃん。楓子の部屋へ行って、早くしようよー」


 ティルナノーグ・オンラインは異世界と何か関連があるのか、それともただの偶然なのか。

 気にはなるのだが、これ以上は何も得られないと思い、一先ず今は十数年振りに楓子と一緒にゲームで遊ぶ事にした。

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