第22話 ようこそカルネ村!

前書き


ずいぶん長い事お待たせしてしまいました。

2019年の最後にも、新年にも更新できませんでしたが、なんとか現実の事情は落ち着いたので、更新できるようになりました。


今回はアルシェが、ゴウン(アインズ)様に案内され、某村(タイトルでバレバレ)に訪れる事になりました。


さてさて、どうなりますやら。




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 一行は、ゴウンと名乗った偉人とも言うべき存在が発生させた見たこともない魔法を通ることを決意し、今… 闇の扉をくぐっている。


 そして、闇のような空間はほんの短い間、もしかしたらそう思い浮かべていただけで、実は暗闇ではなかったのでは?と思うくらい短い間で、明るい陽射しを感じる。


 <転移門ゲート>に入る瞬間、アルシェは目を閉じて歩を進めていた為、瞼の裏に明るい光を感じたような気がしたので、目を開いてみると、目の前(とは言ってもまだ距離はあるが)には背の高い…5メートルは軽く超えているだろうか…


 周囲一帯を木で作られた塀に囲まれ…どこまでも、見渡す限りにその塀が横に広く続いていた、そして…とある場所から円を描くように、中を取り囲んでいるような場所があった…。


 その塀より前、ゴウン様のお屋敷に来る前に迎えてくれたメイドさんの1人がその塀よりもずっと離れた、私たちの目の前で再び出迎えてくれていた。

「アインズ様、この度はようこそお出でくださいました、再びこの村にお越しいただけること、村の皆が喜ぶことでしょう。」


 そう笑顔で、見た感じ怖い風ではないのだが…ウレイリカがすぐに私の後ろに隠れてしまった…どうやらあの人に見える信仰系の魔力はウレイリカには刺激が強いらしい。


「あの…ゴウン様…すみません、ウレイリカがまだ慣れていないようです。」


「ん?どうかしたのかな? ウレイリカ…あのお姉さんの何が怖いのかな?」


 あぁ…そうか…ゴウン様はあの時、直接ウレイリカの状態は見ておられなかった…まだそのことを知らないのは当たり前のことなんだ…と改めて思い直していた。


「あの…実は私は魔力系の魔法の波動、そして、ウレイリカは信仰系の魔法の波動を目視できる力があるみたいで…」


 そう告げると…ゴウン様は「ふむ…」としばらく考えこんだ後、ローブの袖に手を入れて、何かを取り出してそのメイドさんに声を掛ける。


「ルプスレギナ…わざわざこんなところまで出迎えご苦労であった、その労をねぎらうという訳でもないが…、日頃からの私への忠義の褒美だ、これを受け取るがいい。」


「とんでもございません、アインズ様、御方に尽くすのは当たり前のこと、このような事をされずとも、このルプスレギナ、御方への忠義に代わりなどありません!」


「そうか…ならば尚更受け取ってもらわねばな…物で上がり下がりする忠義など、本物ではない、お前の私への忠義は本物であるということに関しての私からの感謝だ、よもや私からの感謝などいらぬとは言うまいな…」


「いえ、決してそのような…わかりました、謹んでお受けいたします。」

 そう言うとルプスレギナさんというメイドさんはそのアイテムを受け取る。


(それは見た目がネックレスであり、十字架のようなデザインをしては居るものの、本来は上の方が短く、下が長くなるのが一般的なロザリオと呼ばれるものであるのに対して、今アインズが渡した物は、上が長く下が短い…さらには十字架に磔にされた男性のような彫り込みが、逆さ吊りになっている。)


「アインズ様…これは?」


「あぁ、それは餡ころもっちもちさんが作成したはいいが、ペストーニャに着けようとして、結局、イメージに合わなかったということで売り払おうとしてたのを私がもらい受けたものだ…」


「え?? あの餡ころもっちもち様がお作りになられたアイテムでございますか?…してこれの名前は、なんと?」


「あぁ…それはな…『背信のロザリオ』というアイテムだ…実のところ、クレリック系の者にしか使い道のないアイテムでな、信仰系の位階魔法のみの探知を阻害できるというものだ…。」


「それを装備したままでも信仰系魔法は使えるので、「使えないと思ってたのに、使えるのかよ?」みたいなビックリさせるための使い道しかない…ドルイドみたいな職業は回復系の位階魔法は誤魔化せるが、ドルイド由来の位階魔法は誤魔化せないしな…、まぁ、使い道はお前次第で、どのようないたずらにも使える…そう思って身に着けておくといい。」


「これは良いものをいただきました、ありがとうございます。」

 そう言って、受け取ったアイテムをすぐさま身に着ける。


「いかがでしょう、アインズ様?」


「あぁ、なかなかよく似合うじゃないか、それでこそお前に渡した甲斐もあるというものだ…」

(ん? ほぉ…ウレイリカが後ろに隠れるのはやめてくれたか…なんとか、怖がらないようになってくれたようだ…。)


「このような素晴らしい褒美をいただいた感謝以上の忠義を捧げ、今まで以上のお役に立てるよう、より一層の精進をいたします。」


「あぁ、以前のように報告、連絡、相談を怠るということは最近は無くなってきているしな、期待している…くれぐれもこの村に害が及ばないように頼んだぞ?」


「はい、身命を賭して、このルプスレギナ、その任務、必ずや遂行してご覧に入れます。」


「うむ、ここに於いてのある程度の裁量はお前に任せているから、心配はしていないが…どうだ、ルプスレギナ…最近の騒ぎ以降、何も変わったことはないか?」


「ハイ、例の亜人集団の侵攻を退けて以来、平穏な日々を迎えられています。」


「そうか…それは何よりだ…それよりもだ、今回この村に来た用件は先程<伝言メッセージ>で知らせた通りだ。」


「ハイ、窺っております、そちらの3名をこの村に移住させるという件でございますね。」


「あぁ、とりあえずは中を見せて実際の姿、平時のままのこの村の姿を見せてやりたくてな…アレらは隠したりはしていないな?」


「ハイ、いつも通り、日常のままで皆が過ごしております。」


「そうか、それは良かった、それならば早速、門の前まで行こうじゃないか…案内をしてくれ」


「かしこまりました、アインズ様、どうぞ、こちらへ…」


 そう言うと、ゴウン様の前に立ち、先導するように門へと歩いていく…近づけば近づくほど、大きさがよくわかる、この塀なら、馬の上からでは中の様子は見えず、空からでなければ近くからは見えないような造りになっている、遠くからなら見えるかもしれないが、レンジャー持ちや魔法の遠隔視でも使えない限りは「人の輪郭、人数」程度しか見渡せないようにわざと造られているようだ。


 歩いて近くまで来ると、目の前には立派な木製の門がそびえ立ち、さらにその上には見張り台らしきものが立っている、そこから数人の見張りがこちらを凝視して大騒ぎしていた。


「みんなに知らせろ! ゴウン様だ! ゴウン様がいらしたぞ!」

「ゴウン様だ! ゴウン様!この村の救世主のゴウン様がいらしたぞ! 早く!早く扉を開けるんだ!」


 

「なんか、すごい騒ぎになってませんか?」とアルシェが聞いてみると…


「ん?あぁ…そう言えばこの村を救ってから直接ここに訪れるのは実に数年ぶりだからな…それなのにみんなもよく覚えていてくれたものだ…」

(やっぱりこの仮面が特徴的なんだろうなぁ~…)



「あぁ、時々私にも話して下さった、あの話の…ですか? さっき『村』って言ってましたし…」とジエット君が軽い質問で問いかけている。


「ははは! まぁそうだ、それで間違いはない…とは言え、人手の問題はあるが、塀で囲った面積で言えばすでに村の規模を超えているのは王国の国王でさえ知るところだ、半年に一度、徴税官が訪れているからな。」


「これだけの規模だと、ずいぶんな税を取られるのではないですか?」


「イヤ?そんなことはないぞ?この国の国王は「国民のため」という名目に弱くてな、ジエット君にも言ったように以前の事件があってから、この村の税はかつてないほど減額され労役も免除されている、この土地面積の規模にふさわしい「人の数」に達した際、その次の年の収穫以降から改めて正規の年貢の取り立てが行われることになっているからな。」


「これだけの規模だと、相当人が多くないと年貢もまとまった金額を払いきれそうにないですね」


「まぁ、そこがこの村にとっては良い作用を及ぼしているのさ、人が少ないという一点があるために年貢を払うだけの余力はないと公然と認められているからな。」


 そこまで話をしていると目の前の門がゆっくりと開いていき、目の前には赤い毛色を短く刈り揃え…それなのにどこかネコっ毛のような印象を抱かせる女性を横に、そして、レンジャーだろうか…割といい年代になっているだろう男性を反対側に連れた、一見ただの村娘にしか見えない…でもどこか目が離せない佇まいの女性が中央に立っている。


「ようこそ、カルネ村に…アインズ・ウール・ゴウン様、再びこのカルネ村へのご来訪、心より歓迎いたします。」


「うん、エンリも元気そうだな、どうだ?読み書きの方は順調に進んでいるか? 読み書き、計算くらいはできないと村を栄えさせるなど出来ないからな。」


「はい、おかげさまでンフィの指導の下、簡単なことならできるようになりました、あとはもっと色々できるようにならないと…という感じです。」


 と言ったところで、「ハ…」と思い浮かべたように急に姿勢を正し、改めて言葉を発していく。


「それよりもこの村の恩人をいつまでも門前に居させる訳には参りません、どうぞ、中へ…ご一行の皆様も、カルネ村へようこそ、大したものはありませんが、ゆっくりして行ってください。」



 門の中に進み、入っていく中、エンリと呼ばれていた女性がなにやらゴウン様に耳打ちをしている。なにを話しているんだろう…


 耳を澄ませていると、ゴウン様の返事だけがなんとか…か細くだが聞こえてきた。

「それには…ない、…通りの…、…を見せ……くれ」


 なんだろう、所々聞きにくかったけど、でもまぁこの村には人以外も共存しているっていうのは事前に聞かされているから、すでに覚悟はできている…どんなのでも大丈夫、ビーストマンだろうとエルフさんだろうと、ドワーフさんだろうと…


 と歩いていると目の前を巨大な木材を丸太のまま肩に担いで運んでいくオーガの姿が目に入る。


「オガ山さん、オガ助さん、その木材はいつもの所にお願いしますね」


 と目の前のオーガに指示を出しているのは先程のエンリと呼ばれていた村娘だ…テキパキとオーガに対しても普通に臆さず話しかけている。

「ウガ…小さき者のシュジン、オレら、ガンバる。」


 素直にオーガが言う事を聞いていることに目を見張る…ここは本当に…人と亜人種が…共存…している…の? オーガとも??


「アネさん、今日はお客人ですかい?」

「エンリのアネさん! お客なんて珍しいな、これは誰なんだ?」


 と最初に話しかけて来たのは背中に毒々しい液体を刀身から滲ませたグレートソードを背負うゴブリン…とは言っても私たちが遭ってきた来たゴブリンとは全くの別物だ…理知的で言葉も普通に話し、力強さも、身のこなしも全くレベルが違うのが魔法詠唱者マジックキャスターの自分でも見て取れるほど、普通のゴブリンじゃないというのは理解できた。


 それに対して、そのグレートソードを背負うゴブリンの横に居る子供のような声のゴブリンも話し方こそ普通の人のようだが、どこかまだ幼さを感じさせる、実際本当にまだ幼いのだろう。


「コラ! アーグ! いい加減アネさんへの口の利き方を覚えねぇか!」


「あぁ、ごめんなさい、族長! この人たちは…誰…ですか?」


「はぁ…もぉいい加減、その呼び方…まぁ、いいです…どうせみんなもぅ誰も私のこと村長だなんて呼んでくれないんだし…」


「あらエンリちゃん、今日も精が出るねぇ、ゴウン様もお久しぶりです、今日はゆっくりして行けるんですか?」

「やぁ、族長さん、ゴウン様の案内かい? 大変だね!」

「アネさん、テーブルの片づけ、終わりやしたぜ! 村のみんなに弓の撃ち方でも教えて来まさぁ。」


 次々と、この村の皆が、エンリさんに声を掛けていく、さも統率者にこれから自分がどう動くかの通達をするかのように知らせてから行動する者まで居る。


「え?…エンリ…さん、あなたが…ここの族長…さん。なんです…か?」

 思わず驚いて聞いてしまった。


「えぇ! 私がこのカルネ村の村長の…『村長』の! エンリ=エモットと申します、お見知りおきを!」


 静かにゆっくりとだが、しかし大事な事らしく2度、ちゃんと念を押して【村長】と自己紹介をしてくれた。


 くるっと横に居たゴウン様の方を向いてみると笑いをこらえて居るのか…小刻みに体を震わせながら、手(ガントレットだが)を口の場所に当てていた。


 アルシェが振り向いたのでエンリも一緒にアインズの方を向いて、アルシェが「族長」と言ってしまった理由になんとなくだがピンと来てしまったようだ。


「「ゴウン様~~~!!!」」


 思わず2人一緒に心の中でアインズにツッコミを入れるのであった。



                     ☆☆☆



「まぁ、そんなにむくれてないでそろそろ許してくれないか?エンリ…せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」


 椅子に座りながら、対面に座って頬をぷぅ~っと膨らませているエンリさんにゴウン様が声を掛けている…いたずらした割に、真剣になって機嫌を取ろうとしているのは何故だろう


「もぉ…ひどいです、ゴウン様! 私が族長って呼ばれること、好きじゃないって知っていたじゃないですか!」


「まぁまぁ、エンリ、キミは村長であると同時に、みんな…人間以外のみんなからも尊敬されているカルネ部族の『族長』ということに表向きにはなってるんだから…そろそろ慣れてもいいんじゃないかな?」


 みんなの分の飲み物を用意してくれ、それを村長の妹さんと一緒に人数分のコップをお盆にのせて持ってきてくれたンフィーレアという優しそうな人が仲裁しようと声を掛けている。


「そぉだよぉ~、お姉ちゃんはもぉここの族長さんになったんだもん、しょうがないよぉ~」

 妹さんだというこの子はネムちゃんというらしい、もう私の妹たちとすっかり打ち解けてしまっている、ウチの妹より少し年は上か、同じくらいだろうか…人懐っこさの中にもどこか大人びた印象を年齢の割に感じさせる時がある。


「もぉ…ネムまでそんなこと言ってぇ~…、そりゃ、ンフィはいいわよね、族長の婿旦那!とか言われないんだから!」


 一行はとりあえず、カルネ村の村長であるエンリの自宅に案内され、カルネ村の現状をアルシェ達にも教えて聞かせていた。


 護衛として召喚したジャックザリッパーは村長宅の玄関前で見張り番をしている。


 すべての指にメスを括り付けた仮面の長身男が同じ屋根の下にいるというのは怖かろうと思い、離れさせている、あれではうかつに握手もできない存在であるからだ。



「そりゃ、私だって『族長』ってだけなら我慢もできますよ? でもね、最近ひどいんですよぉ~?」


「なんだね?なにかイヤな事でもあったのかね?」


 気になったらしくゴウン様が真意について聞くと、信じられないことが起きているということがエンリの口からみんなに聞かされる。


「誰が広めているのかわからないんですが、最近、野良のゴブリンだの、オーガさんだのが森から追われて…、行く所が無いとこの村に来るようになったんです!」


「村の発展にはイイことじゃないか? 人手は増えず、ゴブリン手、オーガ手が増えればそれだけ、年貢も減らしてもらい、労役の免除だってこれからも続くことになるんだろ?」


 こともなげにそんな発言をするゴウン様、そうか…村の面積のわりに「人手」が少ない、というのに、これだけの広大な範囲に渡って塀を作れるというのはそう言う事だったんだ…とアルシェは始めて気がついた。


「問題はソコじゃないんです! 私の悪評が信じられない速度で、森の中で広まったり、関係ない町にまで広まったりして、もぅ私、近くの街にお使いにも行けなくなってるんです…」


「それはタダゴトじゃないな…、一体なにが起こっている?」


 今までの軽い声とは打って変わって、支配者のような重々しい口調が出され、一瞬視線はルプスレギナさんの方に向き、ルプスレギナさんは大きく首を振っていた。何のことかわからないようだ。


「この村を頼って来たオーガさんは…血染めの女隊長を頼って来た、とか言いだしてくるし、ゴブリンさんはゴブリンの大将軍…、へたな街なんかでは「血まみれエンリ」とかになってるんですよぉ~?」


「は…??」

 あまりのことにしばらく硬直した時間がゴウン様に訪れた後…


「それで、この村に何かの被害は…出ているのか?」


「いえ?幸い村のことまでは広まっていません、ただ「血まみれエンリ」という名前ばかりが独り歩きしていて…私じゃ、どうにもならないんです。」


「それで…頼ってきたオーガやゴブリンたちは、評判倒れだと襲い掛かってきたりはしなかったのか?」


「あの…それが…ですね…、来たは来たんですが…、最近私におかしなことが起きてるんです。」


「ほぉ…襲い掛かられたのに無傷なのはすごいじゃないか、ンフィーレア君が魔法で助けにでも入ってくれたのかな?」


「いえ…そうじゃなかったんですよ」

 そう言って苦笑いとも、何とも言えない表情を浮かべているンフィーレアさんが言葉を引き継いだ。


「あの時の事、ゴウン様に言って大丈夫なの?エンリ」


「うん、お願い…私じゃ、主観が入ってうまく説明できないから…」


「じゃ~、その時のことを話すとですね…まぁ、オーガの方が反応が分かりやすいからそっちを言いましょう。」


「あぁ、頼む、何があったか教えてくれ…ンフィーレア君。」


 話によると、こういうことらしい…村にやって来て〝ここに血染めの女隊長がいるはずだ〟と夜中だというのに門前でオーガが喚き散らしだしたと言うのだ。


 オーガが来る少し前にも同じことがゴブリンでもあったため、いい加減誰のことだかわかっているエンリは最初にこの村で「部族入りしたオーガ」を後ろに引き連れ、門の外に来たオーガと対面したらしい。


 そうすると、オーガは一瞬だけ呆気に取られたような感じになり、「ワハハ、ウソをイウナ!ソンナ小サキ者ガソウダトイウノカ?」と大笑いした後、話にならん…というような事を言って、エンリさんに向かって「コンナ小サキ者、ニギリツブシテヤル!」と両手で掴みかかろうとした時、いい加減ゴブリンの時も同じような問答があったらしく…その時はグレートソードを持っていたあのゴブリンさんたちが話をつけたようだったが…エンリさんもウンザリしたのと同時に「勝手に頼ってきといて、なによその言い草。」と頭にも来ていたらしく…


 ついカッとなって『いい加減、黙って頭を下げなさい!』そう恫喝のように言ってしまったところ、全てのオーガが…さっきまで見下して、笑っていたはずの者全てがエンリの前に跪いてしまったのだ。


 さらには「オォォ…オソロシイ、チイサイノノシュジン…オレタチ…アヤマル…」と…そう言って、それ以降、彼女を侮るようなものは居なくなったという。


「私には自分に何が起こってるのかわからないんです、私はただの村娘のはずなのに…いつからこうなってしまったのか…こんな感じじゃ、嫁の貰い手もきっと…と思って…」


 実はその前にも、村のお祭りの一環で腕相撲の勝ち抜き戦をやったところ、全てのゴブリンたちに全勝してしまったのだ、決勝でカイジャリに勝ってしまった時は、もぅ自分は「女の子」ですらないんだな…と、打ちのめされていた。


 ゴブリン達からすれば自分の主人の名声を高めるつもりだったようだが、実際は「女としての自分」の自信を根底から瓦解させることになってしまうなど思いもしなかったと、ンフィーレアに謝りに来て、元気づけてあげてくれないかとお願いしに来た、という事件も手伝っていることはアインズにも知らされていない事実である。


「そうか…そんなことがあったのか…それにしても町にまで名が広まっていたのに、よく捕まらなかったものだね…」


「はい…どうやら噂がさらに広まる時に、大げさに言う人もいるらしくて…私が衛兵さんに世間話で聞かされたのは『身の丈2mを超える筋骨隆々の大女で、その気になれば悪霊犬バーゲストの首を片手でねじ切って、その血をそのまま絞り出し、飲み干すような豪傑』ってことになっていて…今ではきっと、もっとすごい話になっているかと…」


 そう言うとエンリさんは頭を抱えてテーブルに顔を伏せてしまった。


「まぁ…たしかにその噂だと、キミだと結び付ける要素は何1つとして無いからな」「『エモット』の方で名乗り通せばきっとバレないんじゃないか?」

 軽い調子でいうゴウン様もゴウン様だけど、エンリさんの悩みはかなり深いようだ…


「はぁ…私ってもぉ二度と町の外で「エンリ」って名乗ることも呼ばれることも許されないのね…」


 そして机に顔を伏せながら「きっと今頃はただの悪霊犬バーゲストじゃなくなって エルダ-・ 悪霊犬 バーゲストの首を片手でねじ切るような女にされてるんだわ…」と自嘲気味に呟いている。


「元気出しなよ…、エ・ランテルの時は事情で行けなかったけど、できる限りこれからはボクが街への買い物に行くからさ…」

 助けになってるようななってないような事を言うンフィーレアさんにエンリさんのくたびれたような言葉が戻ってくる。


「あなたももぅ一応、ンフィーレア=エモットなんですからね…せめて一緒に苦しんで欲しいわ…」


「わ…わかってるよ…イヤなことなんか思い出す暇ないくらい忘れさせてあげればいいんだろう?期待に添えるようにガンバルヨ……」



「ホント?約束よ?絶対だからね?」 どこか喜びをにじませるような表情になったエンリさん…なにが彼女をそんなに元気にしたのだろう。

 それにンフィーレアさんとエンリさんが見つめ合い始めてるんだけど…


 それにしてもンフィーレアさんの言葉はすごく疲れたような声になって行ってた…最後の方…どうしたのかしら…すごく脱力…というか…諦めというか…棒読みに近い…疲れ果てたような感じが伝わって来たんだけど…


 そう思って、ふと妹…クーデリカの方に目をやると…2人の方に視線を固めたまま…顔を真っ赤にしたかと思うと…両手で顔を覆ってしまった。


 この子には何が見えてるんだろう…そう思うも今は聞きたくても聞ける雰囲気じゃないし…あとで聞いてみよう…そう思ったアルシェだが…後々になってもその事に関しては「言えないし、言いたくない」


 そう口を閉ざしたままだった。


 …クーデリカにしては珍しく頑として話そうとしなかったので、結局どんなものが見えていたのか謎のままだったのである。


 その後、ンフィーレアはアインズにお願いし…魔法持続時間延長化エクステンドマジック魔法三重化トリプレットマジックを組み合わせた<上位認識阻害>を寝室にかけてもらって夜を迎えることになるのだが、そのことも、他の面々はずっと知らぬまま、夜が過ぎていくことになり、翌日は泥のように眠るンフィに、元気いっぱいのエンリという…両極端の朝が訪れることになるなど、誰にも知る由のないことである。



                     ☆☆☆



「さて、見つめ合うのはいいのだが…エンリ?ちょっといいかな? 村長のキミに少しお願いがあるのだが…」


 そう頃合いを見計らい、彼女の意識を現実に戻すことに成功したゴウン様に、少しだけ紅潮しているような顔色のエンリさんが少しうわずったような返事を返していた。


「は…はい、ゴウン様…なんでしょう? 私にできる事ですか?」


「そうだ…キミにしか頼れないことなんだよ…というより、この村に移住したいという人たちがいるのだが…どうだろう? もちろん組合も通していない、訳アリの3人なのだがね…」


「ええ? 移住ですか? このカルネ村に…?」


「まぁ、そうだ…ちょっとした事情があってな、家にも戻れず、もはや国にも居られなくなった可哀そうな子達なんだよ…」


「そうなんですか…ゴウン様がそうおっしゃるなら、きっと悪い人達ではないんでしょうね…、わかりました、幸い、あの事件で空き家はたくさんあります! 掃除する手間は少しありますが、こんな田舎でよかったら、迎え入れる準備はいつでも整えられます。」


「そうか…よかった。 …というわけだ…、どうかな? キミらは移住してみる気は変わっていないかな?」


「あ、ハイ、私の方は問題ありません、こんな平和そうな村だとは思っていなかったので…ここならすぐになじめそうです。」

「ウレイリカも、ここ好き~♪ずっとすむ~…ネムちゃんももっとあそぼうねぇ~?」

「うぅぅ…クーデリカも…ウレイリカといっしょにいるぅ~…。」


「どうしたの?元気なくなっちゃった? ネムと一緒に遊ぶのはイヤ?」

 悲しそうな表情で、ついさっきまで打ち解けて遊んでいたクーデリカの元気がなくなったのを気にしたネムちゃんがすごく心配してくれる。


「うぅぅん、ちがうの、そうじゃないの…げんきないってわけじゃなくて…すめるのはうれしいな~って、うれしすぎてとまどっただけぇ」


 10年程早く、大人への階段の高さを知ってしまったクーデリカの戸惑いはまだしばらく続くのであった。


「よかったぁ~…ネムちゃんもいっしょだねぇ~、これからもいっしょぉ~。」

「うん~♪ ネムも嬉し~よぉ~、二人もお友達できて、うれし~♪」



「良かったな、この村からなら、アルシェ君の所に行っている「依頼の調査」をする場所にも近い、移動するのに苦労はないし、仲間との合流もスムーズに済むだろう。」


(あれ? 私…ワーカーの依頼の件ってゴウン様に話したっけ?)


 疑問に思うも、ゴウン様が知っているのだ、意識してなかっただけできっと話していたのだろうと思うことにした。


 そんなことを考えているとエンリがアインズに疑問を問いかけていた。

「この子達3人が、この村に…ですか?」


「そう思って連れて来たのだが…なにか問題はあるかね?」


「大丈夫です、私たちもこの子達がこの村に早く打ち解けられるように協力させてもらいます、ね? ンフィ?」

「うん、もちろんだよ。 移住してくれる人が増えてよかったね? エンリ。」


「これからももっともっとがんばるからね、ゴウン様、私もっともっとお役に立てるように頑張ります!」


「あぁ、期待しているよ、エンリ…あぁ、それから、キミの悩みの件は…根本的な解決はできないかもしれないが、何がキミの身に起きているのかの原因の方は調べてみようかと思う、しばらく待っていてもらえるかな?」


「あ、ハイ…なにかわかるようだったら、教えてください、難しいならムリにとは言いませんので…」


「難しいかどうかはこれから調べてみてからだな…とはいえ、私の方も少しこれから忙しくなりそうなのだ…それがひと段落してからになるが…それでいいかね?」


「はい、それで構いません、よろしくお願いします、ゴウン様。」


 という話が一通り終わった辺りで、ゴウン様が何かを思いついたようにガントレットをはめた両手で器用に「ポン」と音を立てて、手を鳴らしてこう話題を切り出した。


「所で、この村での結婚式はどうだったのかな? 二人の夫婦の誓いはどういう感じに進んだのか…言える範囲で良いので教えてくれないかな?」


「え? ゴウン様もそういうのにご興味がおありなんですか?」


「エンリは私を何だと思っているのかね?これでも一応、普通の人間なんだぞ?」

(エンリの記憶は最初から仮面をかぶった状態で出会ってるということにしてあるから、初対面の髑髏顔は覚えていないだろう…多分、そのはず! ンフィーレア君も私がアンデッドだとは知らないはずだし…これで問題ないはずだ!)


「あぁ、そうですよね…すみませんゴウン様…でもご期待に添えるようなお話はできそうにありません。」


「ん?なんでだね? 式ぐらい挙げたのだろう?」


「いえ、そういうのはしておりません…何しろこの村には教会もなく、神父様もいないので…」


「あぁ…そうか…そういえば、この村には住み込みで村人に尽くしてくれるような物好きなクレリックやプリーストなど居なかったのだな…」


「そうか…せめて式ぐらい挙げられるような村に、近いうちにしてあげたいものだ…」


 そうつぶやくゴウン様の言葉に…なんとなくの光明に心当たりがある…そう…ゴウン様の言っていた「住み込みで村人に尽くしてくれるような物好きなクレリック」という言葉に思う所があったのだ…が、しかし確定事項ではないので、今は言葉にして伝える段階ではない、話がうまく進んだら伝えることにしよう。


 その時はゴウン様にでもいいし、エンリさんでもいいだろうし…。と1人納得しているアルシェだった。


(そうだ…それなら結婚祝いということで、二人に何か贈り物でもしてあげないといけないよな…)


「あ…そうか…そういえば、そうであったな…ルプスレギナ…これからお前に頼みたいことがある、時間は大丈夫か?」


「アインズ様からのご命令ならばなんなりと…頼みなどと言わず、いくらでも命じてください。」


「そうか…うむ、よし…それならばこれから少しお前に大きな仕事を頼みたい、頼まれてくれるな?」


 そうアインズに伝えられると、喜色満面で二つ返事をしたルプスレギナ。


 その話の流れを何のことかわからず見守っていたエンリとンフィーレアに、今夜、時間を少し空けといてくれ。とだけアインズからは伝えられる。


 そして適当な空き家を貸してくれないか…ともアインズに頼まれたため、ゴウン様のためなら…と、少し広めの家に案内すると「うむ…これならちょうどいいかもしれん。」と何やら嬉しそうにして、何ごとかを始めようとしていた…


 夜になったら呼ぶから…と言われ、エンリは元の自分の家に戻されている。


 そうして一旦ナザリックに戻って準備に必要な物などを用意しようとしていたら、ルプスレギナに殆どの作業をされてしまった。

「御方にそのような雑用など…」と言われ奪われたに等しい。


 結局アインズは、ルプスレギナに一通りの指示を出したり、役目を全うするためのセリフ回しを教えたり…とできることと言ったら、それくらいである。


 その間ひっそりと…、召喚されただけのジャックザリッパーは効果時間が過ぎ、誰に気にされることもなく還って行ってしまうのだった。



                     ☆☆☆



 夜になると、ゴウン様が呼びに来た。「夕方に私のために用意してくれた家まで来て欲しい」と言われ、そこまで足を運ぶことにした。


 訳も分からずにエンリはンフィーレアと共に連れ立ってその家まで行く…するとそこには案内したはずの家はなかった。


 いや、正確に言うと家ではなくなっていて、まるで教会の様な建物に姿を変えていたのだ。

(もちろんそれはアインズの幻術系の魔法で、家全体を幻影で包み、教会のような見た目にしているだけなのだが…)


「それでは、ンフィーレア君はこっちだ…」とゴウン様に案内され…というより連れていかれてしまった。

「それではエンリ様…こちらにどうぞ…」と声を掛けてきたのは…忘れもしない、初めてゴウン様のお屋敷にご招待された時、迎えに来てくれたメイドさんだ…ユリさんと名乗っていただろうか…。


 案内されるがまま、「改造したのかしら」と思うほどになった家の裏口から入ると、そこは何かの衣裳部屋みたいな見た目にされており、複数人の見知らぬメイドさんたちに囲まれ、着せ替え人形のように知らないヒラヒラのドレス姿にさせられる。


 これは何だろう…どういうこと?何が始まるのだろう…そう思っている内に着替えが終わり、すごく歩きづらい真っ白なドレス姿にされてしまった。


 なにやら化粧までしてもらえるという…こういうのは今まで知らないナニかだ…なにがこれから起こるというのだろう…


 そう呆然としていると、また別のメイドさんが扉をノックして現れ「こちらへどうぞ、エンリ=エモット様」という言葉にもぉどうにでもしてくれ、という気持ちと共に誘導されていくと、そこには装いも新たに真っ白な…見たこともない服装になっているンフィーレア。


 見たこともない服だが、なにか特別な感じがする。これはなんだろう…ドキドキしてきた。


 するとンフィーレアが手を差し伸べてきて…「さぁエンリ…」と声を掛けてくれた、ここまでされたら、流れに任せるしかないと…ンフィーレアの手を握り、二人で目の前の扉を開けると…目の前には赤い絨毯でまっすぐに進むしかないような雰囲気にさせられている。


 ンフィーレアと共に前まで進もうとすると、たくさんの拍手の音が響き渡った、赤い絨毯で示された道の両側には、横長の椅子が何列にも並べられ、そこには村中の人達が集められている。


「エンリちゃん、幸せになるんだよ」

「よかったね、エンリちゃん…これからも2人で力を合わせるんだよ。」

「ンフィーレアや、絶対に幸せにするんだよ!」

「お姉ちゃん、キレイだよぉ、ンフィくんとがんばってねぇ」


 口々に祝福の言葉を口にしてくれる…ここまでくればいくら私でも分かる…村育ちで畑ばっかり手伝ってきた私だけど、なにかの物語か何かで見聞きしたことくらいはあった。


 それからは進行が速かった。


 まっすぐ進むとルプスレギナさんが居て「汝、エンリ=エモットはこの者、ンフィーレア=バレアレを夫とし、病める時も健やかなるときも共に歩み、支え、生ある限り愛し合うことを誓いますか?」そう質問される…「ハイ」…自然にそう答えていた。


 ンフィーレアにも同様の質問が問われ、ンフィも「はい!誓います!」そう言われた瞬間、ンフィに対する気持ちが膨らんできたような気がした。


 ルプスレギナさんが「それでは指輪の交換を…」と言い、目の前に指輪を差し出された…すると、小さい声でルプスレギナさんが「これをンフィ君の左手の薬指に嵌めるッスよぉ」と教えてくれる。


 言われたとおりにすると、ンフィも同じようにして…お互いの指輪の交換が終わり…「これで、2人は夫婦として認められました。 それでは誓いの口づけを…」そう言われると、人前では恥ずかしいと思う部分もあるが、どこか嬉しい自分も居る。


 ンフィーレアがドレスの顔部分にかかるベールを持ち上げ、ゆっくりと顔を近づけてくる…ここまで来たら流れはわかる。


 自然と私は目を閉じていた。 唇に軽い…そして確かな温かさを感じ…みんなからたくさんの拍手が沸き上がった。


 そこから目を開けると「新しく夫婦になった2人の門出をみなさんで祝ってください」と促され、再び、今度は真っ赤な絨毯を扉の方へと歩いていく。


 左右の椅子から立ち上がったみんなに拍手で祝福され…扉を開けると…ゴブリンさんたちや、オーガさんたちが出迎えてくれていた。

(多分オーガさんたちはなにがなにやら、わかっていないだろうなぁ…)


 ゴブリンのみんながしているようにオーガのみんなも同じように手を叩いているのが微笑ましかった。


 その真ん中に続いている道を歩いていくと、あっという間に自分の家にたどり着いてしまう。


 扉を開けようとすると近くでゴウン様の声が聞こえてきた「さぁ、エンリ、そこでみんなの方を振り返って、この花束を上空に放るようにして投げるんだ。」


 そんな声が聞こえたが「え?花なんてどこに?」と思うといつの間にか自分の手に花束が握らされている…

(ホント…ゴウン様、やりすぎ)

 と思わず吹き出しそうになってしまった。


 たくさんの人たちに祝福され、ゴブリンのみんなや、オーガさん達にも見送られ…喜びも極まってきたため、言われたようにすることにした。


 上空に放るようにして花束を投げると…自然に上背のあるオーガが受け取ってしまう。


「ウガ?」


 と不思議そうにしてるも、みんながそのミスマッチな光景を見て爆笑の渦へと変化している中、エンリは家の中へと帰る。


 二人で、思わず見つめ合っていると


「どうかな?気に入ってくれたかな?即席だったが、なかなかだっただろう?」


「ゴウン様、夕方から準備を始めて、こんな短時間でどうやってみんなに知らせたんです?」


「簡単なことだよ、元村長に協力してもらって、みんなに知らせてもらったんだ、ゴブリンやオーガにはジュゲムやカイジャリ達が頑張ってくれたんだよ。」


「ちなみにあんな風に見えて、ルプスレギナは司祭長ハイエロファントの称号も持っているんだぞ?本職の神父顔負けだったと思わないか?」

(とは言え、オレの記憶にあるリアルだった世界の、ドラマのシーンとかで観たのを思い出しながらだったから細かい点は違ってるかもしれないけどな…最古図書館アシュールヴァニパルで調べても良かったかもしれないが…でも時間もなかったしこんな物で満足してもらおう。)


(大体、時間を停止して調べ物をするって手もあるけど、魔力だって無限じゃないしな、調べものに魔力を割きすぎて教会に見せるための幻が作れなかったり、不可視化ができなくなったら本末転倒ってやつだしな…そんな時に間違ってもプレイヤーに出くわしたりしたら間抜けすぎだろぉ~…可能性は低いだろうがゼロじゃないということを考えると、最悪の状況を想定するのは用心して、し過ぎだということは無いんだしな…)


 そう判断して「それでは後は若いお二人だけにしてあげましょう」なんていう大昔の「お見合い」という儀式があった頃の決まり文句を言いながら去ろうとすると…


「待ってください、ゴウン様」 と、なぜかンフィーレア君に呼び止められる。


「ん?どうかしたのかね?ンフィーレア君…」と言って振り向くと…実は…と言って、あるお願いをされた。


「とりあえずその件は大丈夫だ、キミらが無事に部屋に入ったら、すぐにその魔法は唱えてあげよう。部屋に入る前にその魔法を使ったらキミたちが部屋に行きつくことができなくなってしまうからな。」

 ここまで言うと、今言った言葉の時以上の小声でアインズは指輪の効果についてンフィーレアに教えてあげる。


 くれぐれもエンリにはナイショだぞ?とだけ付け加えて…。


 アインズが指輪交換の時に用意した指輪、ユグドラシル基準ではせいぜい上級のアイテム効果しかないが、それでも今のエンリとンフィーレアには有用な効果だろう…そう思って1人納得していた。


 ンフィーレアに渡してある方の指輪は、青の宝石がはめられている。

 上級のデータクリスタルであり、その効果は行動を起こすたびに消費される行動ポイントというのがユグドラシルではあったのだがその消費を半分に軽減してくれる効果があるというもの…さらに土台となっている指輪自体に込められている効果はⅠ日に一回だけ、その消費した行動ポイント、そして疲労ポイントを全回復させる。

 というもの…。


 これなら夫婦生活でも、ポーション作成の際にも、ある程度疲れ知らずで励むことができるだろう。という狙いがあっての贈り物。


 そして、ナイショにした方がいいと告げたエンリへの指輪には赤い宝石、これも同様、上級程度のデータクリスタルがはまっており、その効果は支援、及び指揮する技能にボーナスが付くというもの。

 さらに土台になった指輪自体に宿る効果は…装備している間中、自らに<感覚鋭敏>の魔法効果が付与されるというもの…もちろんインスピレーションだけではなく…恐らくこの世界では全ての感覚が鋭敏になってくれることだろう。


 リアル世界でも「魔法使い」であった鈴木悟ではあるが結婚というものに興味がなかったわけではない、人並みにそういうのに憧れはあったのだ。


 だからこそ、ンフィーレアの結婚を祝福したくもあり、応援したくもあったからこその贈り物…。


 カルネ村の面々にも思い入れはあるため、不器用ではあるが、こういう形でしか表せなかったのがもどかしい…しかし、結婚式というものを用意してあげられたのは幸いだったろう…あの二人にとって一生の思い出になってくれることを望んでいるのは真実なのだ。


 

 一方、今回の結婚式にはもちろんアルシェとその妹たち二人も参加していた。

 アルシェとウレイリカは素直に感動していたのだが…


 ただ一人、クーデリカだけが複雑な気持ちで結婚式を見ていた。

 結婚式自体はすごくステキで、キレイであこがれた…自分もあぁいうのが挙げられたらいい。


 それは素直にそう思う…でも…


 その結果が「アレ」に結び付くのかと思うと…ちょっと大人になるのが怖くなってしまうクーデリカ。



 結局、アルシェ達3人は、結婚式が終わった後の…赤い絨毯の両側に並んでいた長椅子や、衣裳部屋の中の家具やらテーブルやらが片付いた、幻影の魔法が消えた家に泊まることになった。


 なぜなら、どうしてもクーデリカがあの家にお世話になり続けるのは悪いから…と遠慮していたからだ。



 …となると、きっとこれから暮らすのはこの家になるのだろうか…と少しだけ思うも、まぁ、この村に住めることにはなったのだ、慌てることはない。


 妹たちと住める家の件はまた明日、聞けばいい、フォーサイトのみんなにはジエット君からちゃんとコトの経緯を伝えてもらうように言ってある。


 この村からだと、帝国は遠い距離だけど、きっとゴウン様と一緒に近くまで送ってもらえることになるだろう。


(それに護衛について来てくれているヴェールさんも傍に居るんだしね…と思うと安心して眠れそうに思えるのが不思議だなと思う。)


 実は途中からアルシェのそばからヴェールは消えており、結婚式が終わった辺りからは、夜眠ることのできないアインズの所に入り浸って、夜通し語り合うことになっているなどとは知りもしていないアルシェの夜はこうして閉じた瞼の向こうで過ぎていくのだった。


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あとがき


カルネ村の塀の「メートル」という概念について


メートル単位について…転移後の異世界では距離や長さはどう表しているのか…と少し悩んだりもしましたが、書籍版でのワンシーン。


ブレインとシャルティアの会話で「自分の測れる単位はメートル単位」というセリフが通じていることからして、それに準ずる単位が存在するか…それともその名称通りで伝わっているのだろうと思うことにしました。


今回の話でベルリバーさんの出番がないことについては、人がいる村に行く、という時点で恐らく人間種のプレイヤーがいたとしても、PVPもしくはPKなどにはならないだろうという憶測で、ほとんどアルシェのそばにはついていません、ちゃんとアインズの用意した護衛も居る(隠密状態で誰にも見られていませんが)ことはわかっているので、安心して村の中の別の場所などをぶらついてこの世界を楽しんでいました。


 さすがに結婚式の際はちゃんと参加してアルシェと一緒に一連の流れは見ていましたが、アインズ様ほど、ンフィにもエンリにも思い入れはなかったため、「ふ~んアインズさんも気が利くことするんだなぁ~、めんどくさそうだけどぉ」程度にしか見ていません。


 でもちゃんとベルリバーさんのお腹の中にいるエルフ3人娘たちは「式」の光景に盛大に盛り上がっておりました。

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気が付いたら大自然、至高のお一人、ご降臨 カクヨムの初心者 LV1 @245824

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