第38話 「…………」

「…………」


「ふっ。まさかマノンが一番に載るとはな。」


 朝…いや、朝言うても昼過ぎやけど。

 事務所に来たら、スタッフ含めて…なんやみんながニヤニヤしてるなあ思ったら…


「おまえ、すっぱ抜かれてるぜ。」


 ナオトが雑誌を俺に差し出した。


「は?」


 そこには…ナタリーと俺が、アパートに入る姿…


「………」


 何回か無言で瞬きを繰り返す。

 小さい記事やけど…これ…


「なあ、これ、なんて書いてあるん?」


 雑誌を手渡すと、ナッキーとナオトはガクッと体を傾かせた。


「ナタリー、年下ギタリストと熱愛。」


 まずはナッキーがタイトルを読み上げた。


「えっ?」


 続いて、ナオトが雑誌を覗き込んで。


「新作も飛ぶように売れているナタリーの恋の相手は、ロックバンドのギタリスト、マノン。二人は同じ事務所に所属しており、『関係が始まったのはマノンが訪米してすぐ』と関係者は語る。『いつも仲睦まじく待ち合わせてアパートに帰ってる姿を見掛ける』とのコメント通り、本誌カメラマンはナタリーをエスコートするマノンの姿を捉えた。マノンの人気が出始めただけに、このスクープが二人にどう影響するか…だってさ。」


 読み終えて、俺を見た。


「…って…いやいやいやいや……」


 なんやねん…このクソ記事。


 俺は雑誌を奪い取ると、読めもせん記事を食い入るように見る。


「…くそっ…」


「まあまあ。ナタリーはすぐに『仲のいい』ってコメント出してたぜ?」


「そうそう。彼女はゴシップに慣れてるらしいから、任せておけば問題ない。幸い記事も小さいしな。」


 ナオトとナッキーが俺の肩に手を掛けて言うたけど。


「それやねん…」


「…は?」


「なんで…なんで、こんなちっさい記事やねん…!!」


「………」


「俺ら、もっと注目されてるはずやん…せやのに『ロックバンドのギタリスト、マノン』てなんなん…なんで『Deep Redのマノン』やないんや…」


 何回も記事に目を落とすも、そこに『Deep Red』の文字はない。

 いくら俺が英語読めへんいうても、自分のバンドの名前がそこにないのぐらい分かる。


 悔しさに震えながら唇を尖らせると。


「…うちの若は大きく出たもんだな。」


 ナオトが茶化すように、俺の頭をぐしゃぐしゃとかきまぜた。


「全くだ。」


 続いて、ナッキーも。


「だあっ!!なんやねんっ!!」


 二人の手を払い除けて立ち上がる。


 …くっそ~…


「はよ名前売らな…こんな屈辱、許せへん…」



 俺はー…

 Deep Redの名前が記事に出されてない事に憤慨するあまり。

 なんも気付かへんかった。


 この雑誌が、日本でも。

 日本語で販売されてるとか。




 まさか、るーが読むとか。



 思わへんやん…。

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