第22話 「…は?」

「…は?」


 音楽屋の奥にあるスタジオ。

 そこで全員揃うた所で、ナッキーが言うた。


「だから、アメリカに来ないかってさ。」


「………」


 ナッキーが口にしたのは、キース・バーネットっちゅうアメリカ人が。

 俺らを向こうで売り出したい。言うて来た話しやった。


「マジか!!」


「いきなりアメリカとか!!」


 ナオトとミツグがハイタッチする。

 俺は…


「やった…やったでー!!親父ー!!」


 ガラにもなく…大きくガッツポーズして叫んでもうた。

 そんな俺を、みんながニヤニヤしながら見てる事に気付いて両手を下ろす。


「翔さんに感謝だな…俺達のデモテープとビデオ、向こうに送ってくれてたらしい。」


 ナッキーが腕組みをして、首を傾げて言うた。

 こんな時やのに…ちょっと顔を斜めにしただけやのに…ナッキー、カッコええなあ思うた。


「マジか…翔さんに足向けて寝られねーよ。」


 ミツグは目をキラッキラさせて指を組んだ。

 乙女か!!


「で、そのキース・バーネット…土曜のライヴに来てたらしい。」


「はあ!?あの、ナッキーが日本語歌ったライヴにか!?」


 ナオトが驚きながらもニヤニヤして言うたもんやから、すかさずナッキーから軽めのビンタを見舞われた。


 そっかー…あれ観に来てたんかー。

 るーが来てなくて若干カッコつけるんは控えてたかもやけど、プレイに手抜きは絶対せえへんし。

 客のノリもサイコーやったし。

 そら、『俺んとこ来ないか』って言いたくもなるわな。



「ああ、でも…まだ完全に契約したわけじゃないし、この話は漏らすなよ。」


「おう。」


「分かった。」


 俺らがウキウキしながらセッティングを始めとるのに。

 約一名。

 ゼブラが複雑な顔しとる。


「ゼブラ?」


 気付いたナッキーが声を掛けると。


「…あ、いや。うん…もし、これ…契約したら、いつアメリカに行く事になるのかなって。」


 何やろ…ゼブラ、少し拗ねたような顔やん?

 アメリカ行って暴れる気、ないんか?

 てか…まさか、アメリカ行くなら脱退する。とか言うんやないよな…


「春から二年ってさ。その間にデビュー出来るかどうかは俺ら次第。」


「春から二年?」


 ギターを担ぎながら、ナッキーに問いかける。


「それって、俺の卒業を待ってから言う事か?」


「向こうが言って来た事だから、それはないと思うぜ。」


「そっかー。俺的には今すぐでもええんやけど、卒業するって約束やったし…ま、助かるわ。」


 そう。

 俺がこっちに来る条件の一つに『高校は卒業する』があった。

 親父との約束は、果たさなな。



 三時間、色々アレンジの見直しなんかをして、結構ガッツリ練習した。

 ええ汗かいたな~思いながら、エフェクターを片付けとると。


「マノン、写真出来たぜ。」


 ゼブラが封筒を差し出した。


「あ?」


「ナッキーの弟の結婚式の。」


「あっ。欲しい欲しい。」


 立ち上がって、ジーンズの尻で両手をゴシゴシ拭いてから、はは~と頭を下げて封筒を受け取る。


「………」


 封筒からゆっくり写真を取り出すと…


「おっ、るーちゃんいい笑顔だな。」


 背後から抱き着いて来たナッキーが、俺から封筒ごと奪い取った。


「だーっ!!何すんねん!!」


「おまえ、この写真の半分以上は俺が撮ったやつだからな?感謝しろよ。」


「する!!するする!!サンキューサンキュー!!おおきにー!!」


「…嘘っぽいな…」


 ナッキーから封筒を奪い返して、スタジオの隅っこでもう一回その中身を確認する。


「…わー…」


 つい、声が出てもうた。

 るーの可愛さ!!

 制服姿も好きやねんけど、このドレス…似合うてたなあ…


 お…俺っ!!

 なんや!!このホストみたいなん…!!


 初めて着たスーツは、ナッキーから借りたもんやけど…

 やっぱ髪長いとアレやな…勝手に派手にさせられる言うか…


 あ~…ツーショット…幸せやな~…


「ん…?ゼブラ、これ二枚焼いてくれたん?」


 ようよう見たら、ツーショット以外にも二枚ある。


「パスケースにでも入れろ。」


 ゼブラが親指を突き出して言った。

 俺もそれに対してビシッと親指を突き出す。


 パスケースな~。

 定期とか使わへんし、持ってないなあ。

 あ、学食の回数券入れるやつ……いやいや、そんなんと一緒に入れたないな。


「よし。パスケース買いに行こ。」


 ちゃちゃっと片付けてギターを担いだ俺がそう言うと。


「全く…幸せな奴…」


 なぜかゼブラから、そんなつぶやきと深い溜息が聞こえて来た。

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