第16話 「な…なんやて…?」

「な…なんやて…?」


 握りしめた両手が、わなわなと震える。


 今…陽世里は…なんて言うた…?

 るーが…

 お…俺と…


「付き合うてるって…思ってなかった…て?」


「うん。」


 陽世里は、どっかナッキーを思わせる笑顔で首を傾げる。


「マノン、好きって言っただけで、付き合おうって言ってないんじゃない?」


「はっ…!!」


 た…確かに…確かにそうやけど…


「けっけど、けど、好き同士やったら、付き合うよな?な?」


 陽世里にグイグイ詰め寄って問いかける。


「…彼女、マノンに好きって言った?」


「………」


 陽世里の言葉に足が止まった。


 …るーは…


『す……』

『好……?』

『すごく…いいところだったのに……うんぬんかんぬん…』


 好き言われてへん―――――!!


 No―――!!



「あはは。ま、ちゃんとアドバイスしといたから。」


「はああああ…サンキュー陽世里……」


 て…

 ん?え?

 何で陽世里…るーと…?


 よう考えたらおかしいやんか!!

 俺かて、あれから会うてないのに!!



「彼女、可愛いよね。すぐ真っ赤になるし。」


「陽世里―――!!」


 壁際に追い詰めて、顔を近付ける。


「何で!!何でおまえ、るーと…!?」


「うーん。ちょっとね。」


 俺の剣幕はどこ吹く風な様子で、陽世里は飄々と俺の睨みを受け流す。


「許さへんで…」


「あはは。ごめんごめん。マノンの彼女、俺の婚約者の親友だからさ。」


「………えっ?」


 陽世里の言葉に、目をパチパチさせる。


 …俺の彼女…=るー…

 陽世里の婚約者…が、るーの親友…


「だから、知っておきたくて。俺の婚約者の親友が、どんな子か。」


「……」


 るーの親友…て言うたら…


「…ヨリコ?」


「あっ、何で呼び捨てなんだよ。マノンこそ、頼子知ってんの?」


「……」


 知ってるで。

 めっちゃ俺を睨んだ女。

 取り巻きに対しても、髪の毛鷲掴みにしたり…



「…あれ…やな。ダイモス的言うか…」


「何で闘将なんだよ。」


「うっ…陽世里知ってるんや…ダイモス…」


「何だよそれ。みんな知ってるだろ。」


「いや、まあ…そやな…」


 お坊ちゃんやし、知らんやろ思うて言うたのに。

 いや、そんなんどうでもええ………


「…ん?」


「何。」


 首を傾げた俺に合わせて、陽世里も首を傾げる。


 るーの親友がヨリコ…ちゃん…てのは、まあ…分かった。

 婚約者…


「…婚約者?」


「ああ。」


 首を傾げたまま言うた俺に、陽世里が笑う。


「陽世里、彼女いる言うてたのは?」


「頼子だよ。」


「……」


「何だよ。当たり前だろ。」


 まあ…そうか。

 つー事は、彼女から婚約者にランクアップ。

 けど、婚約者っつー事は…


「婚約者って事は、けっ」


「彼女、マノンに会いたがってたよ?」


 問いかけを遮られたけど、その言葉は俺の疑問を消し去るには十分の威力があった。


「えっ?」


「会う時間、ちゃんと作ってあげたら?」


「……」


 なんや…カーッと。

 カーッと、顔に熱が集まった。


 きょ今日は木曜やし、ちゃちゃちゃんと…会うし…

 そら、俺もどんだけ今日が待ち遠しかったか。

 けどな…?がっついとる思われたないやん?

 いちお、年上やし…余裕あるとこ見せなあかんよなって…


「ふふ。マノン、楽しそうだね。」


「はっ。」


 陽世里の声に我に返った。

 今日会うたとして…俺、ちゃんと話せるんかな?

 自分でもらしゅうない思うけど、幻滅されたない~!!


「……陽世里、俺早退する。」


「え?」


「担任には適当に言うといてくれ。ほなな!!」


 首をすくめる陽世里を視界の隅っこに入れながら、俺はそのまま学校を出た。

 そして目指したのは…



「おまえ、学校は。」


 目の前のナッキーは、少し呆れたような顔で俺を見下ろす。


「大事な用が。」


「俺に?」


「ああ。」


「……」


 南国風の飯屋。

 ナッキーは腰に巻いたエプロンを外すと、座ってた俺の腕を引いて。


「休憩行って来ます。」


 厨房に声を掛けた。

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