第52話 ご遠慮ください、お料理を!

「おにいちゃんのぼっち歴を甘くみてもらっては困ります。友達からのプレゼントなんて、おにいちゃんには生涯の宝物ですよ」


ふふんとドヤ顔で話すあたしに、花音さんはポツリと独り言のように呟いた。


「もっと気軽に使っててくれてもいいんですが……」


「具体的にどうして欲しいんですか?」


「それはもちろん普段から見える場所に置いててくれたら嬉しいですし、……眠る時には一緒に抱いて眠ってくれたらなんて………」


「後半のそれはあたしの特権なので難しいですね」


「そうですか……それは残念………あれ?なにか今すごいことを聞いてしまったような……」


「気のせいですよ」


勘の良いがきは嫌われますよ。


………あたしの方が年下だった。



それから。せっかく食材を持ってきてもらったから、皆でおにいちゃんにそれぞれの特製おかゆを作ろうとなったところで、


「すいません……」


花音さんがおずおずと手を上げた。


「私、料理は全くダメでして………」


料理屋さんの娘さんだから、てっきり料理を教え込まれているとばかり思いこんでたけど……。


「ええ、たしかに家は定食屋さんなんですけど、小さい時に練習して以来、私は両親から料理をする機会を与えられないんですよね」


「過保護……とかいうのですか? もしかして昔、怪我か何かを……?」


「あの、そういうわけではなく……」


「「?」」


とても言い辛そうに、花音さんは目を逸らしながら、


「……………食中毒は洒落にならないからって………」


「「あぁ、うん……」」


あたしたちは、二人そろってそんな微妙な反応をするしかなかった。


そうですよね、料理屋さんですもんね。


「自分ではあまり覚えていないので両親から聞いた話になりますが……お米を炊けばなぜか包丁が使用された形跡があったといいますし、」


「「なぜ!!?」」


お米じゃなくて包丁をといだの!?


「肉じゃがを作るお手伝いをしたら、どういうわけかカレーが出来上がってしまいまして、」


「「カレー粉を入れたんじゃない!!?」」


「それが、ちょうどカレー粉をきらしてたらしいんですよ」


「「まさかのスパイスから!!?」」


お願い、スパイスを自分で調合したと言って!!


じゃないとそれはもはや錬金術の域に……。というか食中毒どこいったの!?


「極め付けは、」


「「まだあるの!!?」」


でも、ここまで来たらもう何も怖くない。


あたしと那月さんは互いに微笑むと、その恐ろしい戦場へと歩みを進め──


「…………私の作ったクッキーを食べた父が倒れまして………入院して検査してみたら胃の中に見たことも聞いたことのない鉱物があったみたいで、後日調べてみるとそれはこの地球上に存在しないものだと……」


「「…………あの、その……気軽に声をかけてごめんなさい」」


──この世には絶対に触れてはいけない話題があって、それはこんなふうにその辺に転がっているんだと思った。


まさかただのお料理話がそれにあたるとは夢にも思っていなかったけど……。


まあ、きっと彼女がこれから包丁を握ることは二度と無いと思う。


……もしあったら、それは多分地球最後の日だと思う。むしろ地球最後の日の原因になりそうな……。


あたしはなんとか雰囲気を変えようと、大きく声を出した。


「……あ、じゃあ那月さんに手伝ってもらいますね!なんか、


ちなみにこの話題にしたことには他意はない。


「き、昨日!?二人でどこか出掛けたんですか!?」


「……ボクは今、とても嫁いびりというものを感じているよ」


「あら残念ですね、あたしはおにいちゃんにお嫁さんに貰っていただいた覚えはまだありませんよ?」


「「…………っ!!?」」


そうしてあたしと那月さんが無言で牽制し合っていたら、


「……な、なにか私の知らないところで大きな戦いが始まっていたような気がします」


これはとうとう私も料理の修行をしなければ……と、とても不穏な呟きを漏らす花音さんを二人で必死に説得した。


……この時ばかりは、あたしたちの息もぴったりだった。




──────────────────


今回が今年最後の通常話更新となります。

12月の30日か31日に年末特別話を更新する予定です。

そちらもよろしくお願いします。


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