第26話 うたたねの…

(なんとか機嫌を直してもらった)千堂のお母さんと少し話していると、


「すいません。お待たせしました十宮く……って、なんでお母さんがいるんですか!」


「花音、友達を待たせすぎですよ。そんなしっかりオシャレまでして……」


「い、いつもこんな感じじゃないですか」


「それは嘘ですね。大体ジャー……」


「あーー!十宮くん、早く行きましょう。さ、早く早く!」


「え、あ、うん」


千堂さんに急かされたので、千堂さんのお母さんに頭を下げてからさっさと家に入る。

千堂さんのお母さんはなぜか少しニヤニヤしていた。


残された千堂母は


「ふふふ、あれが十宮くんですか」


となんとなく嬉しそうに呟いた。

※※※


千堂さんの部屋は二階にあった。僕と同じだ。


そういえば、女子の部屋に入るのは初めてかもしれない。

真由?

真由の部屋にも入らないからなぁ。

それに、僕たちの部屋には鍵がついている。

あんまり使わないけど。

それに何故か真由は鍵を突破してくるから意味がない。

おっと、話がだいぶ逸れた。

それで千堂さんの部屋。

なんだかよく分からないけど、ザ・女子って感じの部屋だった。

ぬいぐるみも置いてある。

サメと⋯⋯なんだコレ?


「千堂さん、コレは⋯⋯」


「はい、オオカミウオです」


オオカミウオ⁉︎


「キモかわいいですよね」


「あぁ、うん。キモかわいいね」


よく見れば、たしかにキモかわいいような⋯⋯?


「でも、オオカミウオのぬいぐるみってあるんだね」


「あ、それは私が作りました」


「手作り⁉︎」


なんと手作りらしい。

すごい!

前に手芸が趣味だって言ってたっけ。

ちなみにサメも手作りらしい。


「よかったら、今度何か作りましょうか?」


願ったり叶ったり。

クジラのぬいぐるみをお願いした。

でもやっぱりぬいぐるみっていいよね。

話し相手になってくれるし。

ただし喋るぬいぐるみ、あれはだめだ。

小さい時に買ってもらったくまのぬいぐるみが


『ぼくと友……トモ、トモダ、トモダt……トォーモォーー!ォ…』


と言ったきり、二度と喋らなくなったのはかなりトラウマになっている。

あまり小さい頃のことは覚えてないけど、なぜかこれははっきりと覚えている。

これもぼっちオーラとやらの影響だったのだろうか。

おっと、話が随分と逸れてしまった。

ぬいぐるみは最高だぜ!って話だったっけ。

いや、千堂さんの部屋の話だったか。

とにかく、人の部屋なんて滅多に見る機会がなかったから、ついじっくり見てしまう。

やっぱり自分の部屋とは全然違うなぁ。


「あのぅ、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいです……」


「あ、ごめん」


しまった、見過ぎだったかもしれない。注意しよう。


「そ、それじゃあお茶でも入れてきますね」


パタパタとスリッパを鳴らして千堂さんが部屋から出て行った。


……なぜだろう。

ちょっと落ち着かないなぁ。

そわそわしてしまう。

友達の家に遊びに来れて嬉しいからかな?



千堂さんが戻ってきた。


「はい、お茶をどうぞ」


「ありがと」

ずずっ………チラッ


「⋯⋯⋯」


なんか千堂さんがめっちゃ見てくる。


「ど、どうですか?」


「うん。美味しいよ」


なるほど。お茶の感想が聞きたかったのか。


「それは良かったです」


※※※


「ふぁあ〜」


おっと、窓からさす日差しがぽかぽかと暖かくて、ついあくびが出てしまう。


「ふふっ、眠いんですか?」


「うん……ちょっとね」


ちょうどお昼だし……いつもなら昼寝をしている頃だ。

眠くなるのも無理はない。


「気にせずに寝てもいいんですよ?」


「でも…お昼……まだ食べてないし……」


ハンバーグ……


「またお客さんがいらしたので、もう少ししてからでも大丈夫ですよ」


「……そう?」


じゃあ、いいのかなぁ…


「はい」


「じゃあ………お言葉に…甘えて………」


自然と体が横になる。

カーペットが柔らかくて気持ちいい。


「はい、おやすみなさい」


「おやす………」


意識を手放すのにそう時間はかからなかった。






「ふふっ、これで膝枕ができますね」


花音は、自らの膝の上に置いた蓮也の頭を撫でつつ、そう呟いた。

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