第2話 挨拶(後編)

「・・・・・・いや、スッゴイ間があったね。そういう、タメとかいらないから。」

―うるせぇ。演出の問題に口出すな。






「そういえば、今日で丁度4年目か。」

「・・・・・そうだな。」

暫くの沈黙のうち、社長―覚吏さとりのほうから口を開いた。

 「まあ、ご苦労様。琉輝りゅうき。姉ちゃんは嬉しいよ。こんなに大きくなって・・・・」


「昔の話はすんな。近所付き合い程度で姉ちゃん面すんな。」


―鬱陶しい事に、昔からの顔馴染み、というよりか腐れ縁だ。

小学生前半までずっと一緒に遊んだ記憶が蘇る。


正直に言って、思い出したくない。


「ハハハッ。この流れも久しぶりだね。」


「4年前にアンタの顔を見た時は少し戸惑ったよ。」


「んんー、見惚れた?」


「ぶっちゃけな。多分一生の屈辱だよ。」


「ひどいなー。」


「そういうとこだよ。オレが覚吏さとりを女として見れないの。」


「ここでは社長呼びだ。リュウ。昔はおねえちゃーんって小さな頃のお前がすり寄ってたのに。」


「だから昔の話はすんなって。あと、さりげなくリュウって呼ぶな!」


―リュウってのは昔のオレのあだ名だ。

 そして、昔の話は何がなんでもしない。絶対にだ。


「・・・まっ、その反応見る限り、なんかね。」


「・・・・・・」



―反応に困る。


覚吏さとりには正直言ってバレてるだろうし。


かといって自分で話すのもアレだ。



「まあ、無理しなくていいよ。話したい時に話してごらん。」


「理由・・・・か。」


「^^」


ーここは、甘えるべきだろうか。さっきからずっとニヤニヤしてる覚吏さとりがムカつくが・・・・


「おい。」


「・・・・・・オレがまだ8の頃だ。」

「わたしが16の頃だねー。あの頃のわたしは・・・・・」

―黙れ。shut up。シャラップ。

「アッハイ。」


*  *  *  *  *


ーオレには妹がいた。名前を日向ひなた

生まれたばかりの妹は検査のため、しばらく入院していた。


母さんからそう聞かされていた時は、心から楽しみで、眠れない日もあったほどだ。


きっと元気になって戻ってくる。一緒に遊べる。そう思ってた。

―あの日が来るまでは。



―何カ月も後の話、オレは無能力者プレーン異能者エネミーの違いを、授業で習った。

「せんせー、プレーンとエネミーの違いってー?」


「いいところに気が付いたねー、琉輝くん。」


その日も、いつも通り授業を受ける日々だった。この質問さえなければ。


「プレーンとエネミーの違いは、ズバリ、身体が丈夫なことかな?」


「からだがじょーぶなこと?」


「そう。データの統計学上、エネミーに比べ、プレーンの人々は、からだが弱い傾向にあるんだ。20代までを対象に選び、エネミーと比べ、重い病気に掛かったことのあるプレーンの人達は、全体のおよそ7割ぐらいなんだ。そして、その中で病死したプレーンは、およそ10代未満で、8割が占めているんだ。その為、生まれたばかりの子供は、病院で徹底管理された病室に移されるんだ。」


「「「へぇ~」」」



ーそう。だ。周りの奴らにすれば。


だが、オレは、オレだけは違った。




「・・・・それって・・・・・ひなたは・・・・」


そして帰って来てすぐ、母さんに聞いた。

「おかあさん、ひなたは・・・・?」

その後、母さんからはこう返ってきた。





「琉輝・・・・日向は・・・・日向は、もういないの。」













「―――え?」




―茫然自失と立っていた。どのくらい立っていただろうか。



後から聞いた話だと、日向は元々身体が弱く、無能力者プレーンだったのも相まって、1歳にもならず、死んでしまった。





オレが異形能力エネミースキルに目覚めたのは、皮肉にも翌日のことだった。

そっから、オレの転覆人生は始まった。



「気持ち悪い!」「近づかないで!」「バケモノ!」


【―なんで。】


揃いも揃って、オレを虐める。

身体が爛れ落ちるオレを、バケモノと呼び蔑んだ。




無論、能力の制御はすぐさま出来たが・・・・




「気味が悪いな」「雑魚っぽい」「どけよモブキャラ」


【―どうして。】


能力も相まって、中学時代や高校時代はすっかり三下扱い。

しかし、覚吏が時々遊びに来て、というか連絡で会話する程度だが、立ち直ることが出来た。



―――神様は時に無情で、14の時、支えの綱だった母さんは死んだ。


異能犯罪者モンスターによる犯行だった。

犯人はまだ捕まってない。


【―――】


日向を失った。母さんが死んだ。それが心に、孔を開けることになった。


幸いにも、勉強にも生活にも支障をきたすことはなかった。


ただ、虚無と憎しみが、心に残るだけだった。



「つらかったね・・・・でも、強く生きて、お姉ちゃんは嬉しいよ。・・・あの頃は進路の方もあったからわたしは遊びに行けなかったけど・・・」


「いいから黙れ。口塞ぐぞ。」


「すいませんでした。勘弁してください。」


そして、ここに入ろうと思ったのは、4年も前の話だ。



元から警官志望だったオレが、面接試験で、筆記は上位内には入ったことで期待の的にもなった。


―実技試験で、みんなの目が養豚場の豚を見るように蔑んだものになったのは言うまでもない。



理由はこの能力のや、相手に対して容赦しなかったので、KY認定されたんだろう。・・・正直あの時はやり過ぎた。



結果として、ここに通うだけのものは手に入ったが、他人への信頼を失った。



そして、オレは就職を蹴った。

こんなオレが、皆と一緒にいられるはずがないからだ。


「わたしと、ね。」




そう。約束。それは蹴る代わりに、3年後、無能力者プレーンとして無条件採用されること。そして、半年間プレーンとして過ごすこと。

オレから提案し、覚吏さとりが飲んだ条件でもある。

正確に言えば、蹴ったんじゃなく、謹慎処分のようなものだが・・・・・


「・・・・・何とか上手く行ったみたいだな。」

「ええ。もう貴方は自由よ。」

「・・・・長かったな。」

「そうね。―改めて、ようこそ。「サトリ総警インダクション」へ。壱原琉輝いちはらりゅうき君。」







―こうして、活躍の準備は整った。

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