第6話






6、初めての契約


15日目

八幡西区、帆柱山の急な坂道、周りには桜が乱れ咲き、その中に古びた家が並ぶ。

もちろん、桜など周りを見る余裕も無く、ひたすら飛び込む。

だんだん焦りからか、自分に余裕が無くなって来る。

その時 、チャイムを鳴らすと玄関より70才位の老人(下田さん)が出て来て怪しげにこっちを見てる。おっかない人だ。無理だ・・・逃げたい!

『どなた?』

『昭和堂から来ました。本屋などで販売されてない大全集など紹介している本屋です。』

下田さんはふ〜んと言いながら耳を傾けてくれた。ここは日本の芸術を勧めよう!と思い、すかさずカバンに入れてた第1巻を見てもらった。

『素晴らしいね!こんな大全集は素晴らしいね!他の巻はどんな建築物や陶器なんか紹介してるの?』

焦った!カタログで紹介したが明らかにに勉強不足が下田さんに伝わった。

『ところで定価は、なんぼ?』

『45万です。』

『高っ!』

『ローンを組めば毎月1万からでも行けます!』

『アホかぁ!わしゃ70歳や!

ローン組んだら途中で死んどるわい!もういい!帰れ!』

おっかなく、ビビった!

下田さん宅を後にした。

何件が回った所で森リーダーと出会った。

先程の事を伝えると森さんは『落ちる。

いや必ず落とせる!行くぞ!』


下田さん宅・・ピンポーン!

『また、お前かぁ!』

『先程高橋が説明されたと思うんですが、ホント、良い本でしょ。

私趣味で古美術とか興味あって、暇さえあれば古美術周りや日本の国宝をまわっているんですが、なかなか長期の休みが無くて、その時、日本の芸術を見て、日本中を行った気分で夢の旅に出てるんですよ。

これとか見て下さい。』

パンパンのカバンの中から2巻の日本の芸術を出した。

結構、読まれた感じで汚れてはいるが折り目もなく大事に扱われていると直ぐに感じた。

『私、寺に凄く行きたくて!この、お寺とか立派でしょ。』


『わしゃ、この寺は行った事あるぞ!わしもあんたと一緒で寺周りや古美術、国宝が好きでの〜この歳で暇な人間やし、旅三昧じゃ!やっぱり素晴らしい本や!安い買い物やないけど買わして貰うわ!』

さすが森リーダーだ契約を持って行かれたけど、これがプロの仕事と思った。

自分には、まだまだ無理だと感じた瞬間だった…。

と、その時、森リーダーが下田さん、もう一度、高橋に話を聞いてあげて下さい。

そして良ければ契約をお願いします。

えっ…

どう言う事だ。

訳の解らないまま、必死に喋った。

そして、最後に、

「自分は森リーダーみたいに勉強してないし、はっきり言って文化遺産なんて、よく解りませんが、これからはいい物は自信を持っておススメします。』と頭を下げた。


よし契約だ!がんばれよ。

森リーダーは自分に『契約書を出しなさい。』えっ…ほとんど森リーダーのお陰なのに…

『おめでとう良く頑張った!』

『ありがとうございます。』

しかし心の中は寒かった。

満足感も感じられないまま支社に帰り

『高橋、45Pいきました。』

周りからおめでとう!の大喝采。そこには全く喜べない自分がいた。

その夜、初めて皆さんを誘い夜の街へ。

皆んなニャッとニヤける。

ちなみに45Pすなわち4万5千円歩合制の収入。スナックの出費3万円…これを繰り返していたら破天荒すぎる…

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