第7話:測定


「君達の宿舎は魔導院の方に手配しておこう。身の回りの物を整える時間もあるだろう、三日後からここには来て貰う。それでどうかな?」


二人としては早い所で食い扶持のアテを見つけたかったので異存はなく、首を縦に振った。

それを見て一つ頷くとレイ・フォールドと名乗った男は立ち上がると輪と舞に目線を向けて来た。


「宿を準備する間に君達にやってもらいたいことがある。ついて来たまえ」


「私達にって・・・・・・仕事、ですか?」


「さすがに今の状況で働かせる程、冷酷ではないつもりだ。魔導院で過ごす上で絶対的に必要なものがある。それは―――」


そして、レイは今までとは若干、種類が違う笑みを浮かべて輪を一瞥した。

その表情と目線の正体がそれぞれ輪には覚えのある感情を示していて、マナの少ない自分の方が観察されているような気分だった。

レイの示したもの、それは愉悦と強い興味だったのかもしれなかった。



「君達の潜在能力、そして才能・・・・・・さ」



レイへと着いて来た後、待っていたのは写真でしか見たことのないコロシアムを思わせるすり鉢状の空間だった。

コロシアムにはドームのように天井の開閉も付いているようで、この時代の技術水準の高さを改めて思い知る。

漫画等の異世界では大体が中世ヨーロッパのような発達していない文明が描かれていたので印象的に技術水準が低いように錯覚していた。


だが、歴史を重ねた人間の考えることに大きな差が出来るはずもないのだ。


「院長先生、急に呼び出すなんてどうしたんですか?」


そこには職員とは思えない軍服の固さを多少なりとも和らげたような制服を着た少女が立っていた。

長い金色の髪に意志の強そうな瞳、人形のように整った容姿をした彼女は見た目の年齢で言えば輪達と同じ程度だろう。

どうやら院長、かなり立場が上と思われるレイに対しても少女は礼儀を保ちつつも肩の力が抜けた態度で訊ねた。


「ああ、御客人が来ていてね。どうやら歪みから訪れた異界人のようだ。事情を聞く限りは人格にも問題はなさそうだから、魔導院で預かることにした」


「珍しいですね、まあいいか。あたしはサラ・ルナフォーク。年、同じくらいだろうからサラでいいわよ」


「ああ、よろしくサラ。俺は逆無 輪だ」


「・・・・・・鷹崎 舞。よ、よろしく」


「・・・・・・えっと、マイだっけ?なんで隠れてるのよ」


「悪い、ちょっと拗らせててな。すぐに慣れると思うから」


さすがに初対面の金髪美少女と出会って会話できる程のコミュニケーション能力を持ち合わせていない舞はやや尻込みしているようだ。

クールキャラに憧れた結果として、人見知りとまで行かないが相手によっては慣れるのに時間がかかる難病を患っている。


「拗らせてるって言うと語弊があるわ。ちょっぴり人見知りなだけよ」


「それでここで力を試すってことですか?」


話が進まないので唇を尖らせて抗議する舞を放置して、輪はレイとサラに向かってここまで連れて来られたことへの疑問をぶつける。


「ああ、鷹崎くんの力は強力だが今日は試す程度でいいだろう。それよりも君だよ、逆無くん。君の力に私は興味があってね」


「・・・・・・ふーん、確かにマイの方は生体魔素アストマナの量が凄いわね。リンは、あんまり感じないわ」


「その生体魔素アストマナってのは何なんだ?」


「魔導院で教わるとは思うけど、日常生活で使われてるマナと私達の体とか大気に含まれてる生体魔素アストマナって区別されてるのよ。前者は動力、後者は人間の肉体の原動力とか現象の源になるの」


サラは気が強そうな見た目に反して、人が良いようで親切に嫌な顔一つせずに説明してくれる。

要するに生命力という捉え方で良いらしいが、それが何を意味しているのかはまだピンと来ていない。


「ま、要するに魔術の源って解釈でいいわよ。その様子だとあなた達も何か使えるんでしょ?」


サラは捕捉説明をしながらもコロシアムに隣接した白い建物に二人とレイを伴って入っていく。

既に鍵は開けて準備はしていた辺り、レイから何か連絡を取っていたのかもしれないがあまりに段取りが良かった。

室内は研究施設といった印象の空間で、白い壁に地面には灰色のカーペットのような素材が敷いてある。


様々な機器に紛れて、複数のプリンターの亜種に見える機械が何台か置いてあって、それがここに連れて来た目的らしい。


「これは能力測定用装置でね、そこの台に利き腕を置くんだ。そうすれば君達の力は概ね判明することになる」


レイの言葉に従って目の前のバーコードリーダーを思わせるガラス張りの箇所に腕を置いて舞も隣の台でそれに従った。

機械の奥には薄っすらと様々な鉱石が組み込まれているのが見えて、これで生体魔素アストマナとやらを計測しているのだろうか。


自分の現代魔術が何なのか、これでようやく判明するのか。


今までは漠然とどういうものなのかを本能では理解していながらも使い方も何もわからなかった。

はっきりとしていたのは明確な敵が存在しない世界では使用を許されないものだったという感覚だけだ。


最初は気付かなかったが、横に埋め込まれている鉱石が様々なパターンで輝き始めているのをレイとサラは何やら記録しているようだった。


マナに依存した文明は時に現代をも凌ぐが、ハイテクなデジタル化までは進んでいないようで機械を使いつつも計測は原始的な形で進められる。

戦闘力が数値で出るとかであれば簡単だったのだが、そういうわけにもいかないらしかった。


そして、二人の測定結果が明らかになった。


結果はサラ曰く、鉱石の変化をマニュアルに従って分析する方法だったようでどんな能力かどうかの方向性はわかるそうだ。

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