SOL.9:新型VS新型

『スルーズ1よりスルーズ2、武装保持急げ!!』


『スルーズ2、武装保持完了!!』


『じゃあ飛ぶわよ!!ブラストオフ!!グッドラック!!』


 2機の海猫が、フル武装状態で空へ上がる。

 続けざまに、2機、ヒポポタマスと同じ仕様のBBB、


 汎用陸戦機パッケージ、『ワイルドボア』がカタパルトで押し出される。


『やれやれ、もうちょっと装甲が欲しいのですけれど、一番ブルーローズの動きのイメージで近いのはコレですものねー』


『あんな欠陥機を好んでいるのか!?

 陸にはもったいないな、SEALsに興味はあるかお嬢さん?』


『おほほ、ごめんあそばせ?

 私自慢じゃありませんけど……『営倉の女王』と呼ばれてますの♪

 エリートには程遠いですわー』





 そうして進むワイルドボアの背後から、2機のブライトウィングが飛び出す。


『オルトリンデ4、今回は崩れないみたいだね』


『は、はいオルトリンデ1!

 なんだか、みっちり練習したおかげで、すごく動かしやすいです!』


 そして、その背後からやってくるスターゴーストの分厚い小手に隠しバルカン、巨大なバズーカを持ち両足にミサイルポッドを満載した砲戦型と近接攻撃可能なライフルと左手にパイルバンカーを備えた近接型の2機。


『オルトリンデ3、遅いよ?』


『何よ、オルトリンデ2!!砲戦型は一歩引くものでしょ!?』


 スターゴースト近接型に乗るフェリシアに言われたジョアンナが、無線越しでもわかるむくれっぷりで答える。




『スルーズ3より前衛全機へ。

 戦闘の目的は、あくまで空母への私の攻撃を遂行するためにシュバルツ機動兵器群を引きつける事だけに徹底して欲しい』


 そして、カタパルトから飛び出す百々目鬼。


 右腕にシースルーガトリングキャノン、『アヴェンジャーリバイブ』、


 そして小さな体に似合わない大量の爆弾を備えている。




『スルーズ2、いい?あの鳥がどれほどの物かは知らないけど、私が全力で撃ち墜とすわよ!!』


『了解!』


『でもあんたは、まずはスルーズ3にたからない様、適当にぶっぱなしながら邪魔する事だけ考えなさい!!

 新兵は無理に撃墜を狙わないで!!

 墜とせて、自分は無事な状態で、この二つの条件が揃わない限り深追いはしない!』


『スルーズ2、了解……!!』


『安心しなさい?


 ───私は、エースパイロットよ!!』


 瞬間、アフターバーナーを全開に加速して、空飛ぶ鳥型の機体へ向かうリディアの海猫。


 複数のベリルを従え、鳥に似た機体が羽ばたきこちらへ加速する。










「先手必勝!!」


 リディアは海猫の右腕の角張った形のシースルーアサルトライフルを3点バーストで放つ。


 短い光弾が回避の遅れたベリルに二発命中し、爆散させる。


「は?簡単に堕ちるわねぇ!?」


 近づいて、腕にシースルーブレードを展開するベリル。

 しかし、左腕のシースルーヴァルカンの短い斉射で蜂の巣にし、事切れる胴体を足蹴にして飛ぶ。


「なにこれ……?

 ってキャッ!?」


 と、ビュンと衝撃波が走る速度でぶつかるように飛んできた鳥を回避して、数発撃つ。


 しかし、大気圏内の飛び方をよく理解した動きで回避して、ふたたび翼にシースルーブレードのような光を纏わせて突撃してくる。


「やるじゃない!」


 移動は辞めていない故にすぐに下降して回避し、通り過ぎた敵機を見ながら上昇して空戦には欠かせない位置エネルギーを確保する。


(何……?おかしいわ……この感じ……!)


 敵の鳥型も即座に上昇し、背後を取ろうとする。

 対して、海猫をバレルロールさせてロックオンを阻害する中、リディアは奇妙な違和感を口に出す。




「なんか妙に操縦しやすいわね……?」




         ***



 一歩引いた戦場、群がるベリル群の中心。


「中尉すごい……!」


『ふむ、そろそろ『効果』が出てきたようだ』


「え?うわっ!?」


 近くを飛ぶ百々目鬼の言葉に一瞬気を取られ、近接攻撃が萌愛の海猫をかすめる。


「このっ!!」


 左腕のシースルーヴァルカンを牽制で撃つ。


 適当に放ったがうまく命中し、一機を爆散させる。


「やった!?」


『上』


「え、うわおぉぉ!?!?!」


 油断大敵、上空から降り注ぐシースルーウェポンの光を慌てて避ける。


「避けられた……!?」


『撃って。牽制をして相手の動きを阻害する!!』


「分かった!!」


 こちらも両腕のシースルーウェポンを連射し、それによって敵機の動きを邪魔する。


「ちゃんと動けてるのが奇跡だなぁ……!!」


『奇跡じゃない。あなたに合わせて操縦難易度が下げられている』


「え!?」


 百々目鬼の周りを飛びながら、牽制射撃を続ける萌愛は疑問の声を上げる。


「どういう事かな!?」


『すでに説明はされてある。


 コレが『Hi-BOS』の効果』



         ***


『あらら!?』


 ガシャァン!


 シャルロッテの乗るワイルドボアの握る、突撃用衝角剣がベリルを一撃で折る。


『コイツら、こんなに弱かったかしら?』


『いや違う!

 なんだこの新型BBは!?まるで今までと違う!』


 スパン、とSEブレードでベリルを両断するジャネットが叫ぶ通り、今までのBBとは違う動きをBBBはしていた。


『みんなどうしたの!?

 調子がいい割になんだか戸惑ってるみたいだけど!』


 バシュウ、バシュウ!!


 ほぼ一撃でベリルを撃ち抜き、出撃後10分で五機目を落とす規格外な戦果を挙げるルルが叫ぶ。


『大尉、何も感じませんの!?

 昨日の試験より、明らかに機体の反応がいい!!

 わたくし、さっき乗り換えたばかりですわよ!?

 そりゃあ、使いやすい特性と言っても!!』


『馴染む……実に馴染む……!!

 まるで私自身が鎧を着て動いているかのような、自在な動きが……そして、こんなにあっさり敵が倒せるとは!』


 武器がシュバルツ兵器の装甲に有効、というレベルではない。


 敵機動兵器ベリルの動きに反応して近くまでが異様に早く、敵の動きに反応して避けるまでもが早い。


 BBの動きから次元が違う。


『私も、なんか全然バランスが崩れないです……!』


『思い通りに動くし、狙った場所に当てられる……!』


『あ……!一機撃破です!!』


 いくらシースルーウェポンがあったとしても、まさか新兵の動きまでここまでできるとは。



          ***




「……もしかして、コレが新OSの……?」


 とその時、ルルの耳にロックオンアラートが聞こえとっさにブライトウィングを横へ動かす。


 過去位置へ飛来する光、避けていった軌道へ撃ち込まれていくシースルーウェポン。


 それらを放つは───高速飛翔する四角い自立兵器ドローン


「これってあの……!?」


 思い出したのは、あの駆けつけてくれた少女の乗っていたBBB。

 鷹匠、と呼ばれていた機体が使っていたもの。


『大尉後ろですぅ!!!!』


 と、志津の叫び声に、とっさに左腕で背中のSEブレードを引き抜く。


 ガキャァンッ!!!


 バチバチ、とシースルーウェポンと同じ色の火花が散り、背後にいた例の強そうな新型の振るったライフルと一体化した剣とつばぜり合いが起こる。


「こ、のぉッッ!!!!」


 瞬間、左腕のHEATランチャーが回り、バァンと至近距離で炸裂する。


 両者爆風に任せて距離を取り、先に狙いを適当につけたルルがライフルを撃って敵を牽制。

 もっとも、それらはシースルーウェポンを防ぐ特殊エネルギーバリアを展開した盾に防がれたが。


「なにそれズルい!!!」


 そして、再び襲いかかる大量の自立兵器ドローン群。


「やっぱりズルい!!」


 それらの生み出すシースルーウェポンの雨を避けながら、ルルはコックピットで叫びをあげた。



           ***


『なんですのアレ!?大尉と互角に戦っているだなんて!?』


『どうやら、対エース用の機体らしい。

 そして嫌な事だが……!』


 ワイルドボアで奮闘する二機の前のカメラアイが、いやルル以外全員の視界に映るいやな影。




 すぃー、という擬音の似合う滑らかな動きで、背後のドローン装備ラックを翼のように広げる姿。



 今、ルルと戦っているシュバルツの新型と同じ機体が、さらに




『我々はレディーエースと互角の敵を、レディーエース抜きで三機落とさなければいけないようだ』


『……こんなこと言いたく無いのですけれどもぉ……


 コンチクショウシャイセッッッ!!!!』


 二人は同時に、左手で保持しているシースルーサブマシンガンを撃つ。


 三機の新型は、それぞれ別に回避や防御を選択して散開。


 一機は、ジャネットとシャルロッテへ刃を振るい、もう一機は、新兵組3人へと近づいていく。


『クッ!!!』


 ガキャァン、と衝角で受け止めるシャルロッテ機の背後から、ワイルドボアの名前にふさわしい加速で躍り出るジャネット機。


『チェアァァァァァァァァァァッッッ!!!』


 雲耀。名のごとく雷光の速さで振り下ろされる機人太刀サムライソード


 しかし、ひらりと身体を回転させかわした敵が、剣を振るって身動きのできないジャネット機を襲う。


(二の太刀がない隙を──────ッ!)


『させませんわァァァァァァァァァァッッッ!!!』


 それを『突き』と呼ぶにはあまりにも鈍く、大雑把な突撃だった。


 メゴシャァッッッ!!!


 三角形だった衝角は思い切り凹み、敵新型は大きく吹き飛ばされる。


 しかし、隙を生じぬ二段構え。


 二人の前に円の形でドローンがシースルーウェポンの銃口を向ける。


『『クッ!!』』


 ドォン!!


 水柱が上がり、戦場を一瞬隠す。





          ***


「中尉!!少尉!!」


『オルトリンデ4!!ヒルド3達の事をかまっている場合じゃ無いでしょ前!!』


 ハッ、となった志津の反応速度と共に攻撃を避けるブライトウィング。


 ドローンを数機浮かばせ、援護射撃と共に肉薄してくる敵の新型。


「まずい……!?」


『もぉ!!志津お姉ちゃんめ!!』


 瞬間、志津の乗るブライトウィングの目の前に躍り出るジョアンナの砲戦型スターゴースト。

 その身体から一瞬光を放ち、真正面へ半透明なEエネルギーシールドを展開する。


 ズドドド!!


 あらゆるビームをはじき返し、肉薄する新型を前に盾となる。


「ジョアンナちゃん!?!」


『───誰か忘れてますよ!』


 だが、さらに間髪入れず志津機の背後から飛び上がる影。


 フェリシアの近接型スターゴーストが、ヴァリアブルスライサーと言う名の武器を近接型にして振るう。


 しかし、即座に反応して近接武装で迎撃され、鍔迫り合いと同時にシースルーウェポンが叩き込まれる。


『クッ……!!』


 同じく、スターゴーストであるためにEシールドを展開して防ぐフェリシア。


「このやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」


 そこへ、ブライトウィングの基本武装のシースルーブレードを引き抜いた志津が突撃して、攻撃をやめさせる。


「クッ……強い……!!」


『しっかりしてオルトリンデ4!!

 私達新兵でも、このまま生きていれば勝機はあるよ!!』


『周りの援軍は望めない状況ですが、私達の機体はジェネレータさえ動いていれば長く戦えます!!

 3人で生き残りましょう!!まずは!!』


「わ、わかった!!年上なのに頼りないけど、根性でなんとかするよ!!」


 新兵3人の機体と、新型との戦いがヒートアップする。



          ***


「3機は抑えてるけど、もう一機は!?」


 海の上を後ろへ引きながら撃ち、敵のドローンの攻撃を避ける。


 単騎で強敵の相手をしながら、状況を掴み、まだ見ぬ四機目の新型を探す。


「こちらオルトリンデ1、単騎交戦中!!

 敵の新型はベリルより強敵で、なんとか全員で三機抑えている!!


 でも一機ガラティーンに行ったかも!!!

 上空から疎外できない!?クッ……!!」



 猛攻とも言えるシースルーウェポンの雨を避けながら、無線へ叫ぶルル。







「ああ!?できたらやってるっつーの、オルトリンデ1!!


 スルーズ隊は全機、というかほぼ私が制空権を確保しようと努力中なのよ!!!」



 上空を鳥型の敵と舞うように飛ぶ海猫。


 ハイGバレルロールの後に、一機の背後へロックオン。


「フォックス2!!」


 ミサイル発射の合図と共に、右肩から放たれたミサイルが、吸い込まれるよう一直線に鳥型の敵へ飛ぶ。


 ズドォォンッ!!


 シースルーウェポンの技術応用のミサイルは、敵のエンジンを見事砕き爆散。


Ouaisやったわっ!!見たぁ!?私の超ファインプレー!!!」


 ようやく一匹の鳥を撃破する喜びにリディアがガッツポーズをした瞬間、下からやってきたもう一体の突撃のような近接攻撃にライフルが破壊される。


「にゃああああああああああっっ!?!??」


 衝撃できりもみするようバランスを崩したリディアの海猫へ、その敵がシースルーウェポンを発射石ながら近づく。


「なによぉっ!?!

 勝った気になって見下ろしてんじゃないわよ鳥ぃぃぃいぃッッッ!!!!」


 そう叫んで機体の姿勢を直し、左腕のシースルーヴァルカンを放つリディア。


 本当の戦いはここからだった。


          ***


「まずいよ!!戻ったほうがいいんじゃ!?」


『あなたの技量では行ってもやられるだけ。

 信じて、私と百々目鬼の護衛を続けて』


「でも……!!くっ!!」


 萌愛は、歯がゆい思いをしつつも、新型や鳥型に任せてこちらに群がり始めたベリル群へ奮闘する。


「三機目……なんだか、コツが分かってきたかも」


『貴女だけじゃない。機体も、OS自体もベリルの特性を覚えてきている。

 もう、ベリルを落とすのは楽なはず』


「そうだねカリンちゃ……あ、アレ!!」


 と、海猫の光学センサーがそれを捉える。



 海上を進む、敵の新型。

 その直線状には、ガラティーンが脇腹を晒している。




『百々目鬼も見た。

 今考えた敵新型呼称、『キャバリエ』がガラティーンへ向かっている』


「やっぱり、」


『ダメ。

 それに貴女には、『ハルピュイア』を相手にしてもらう』


「それってまさか……!?」


 すぅ、とベリルが引く。


 直後、翼を後退させ、超高速で突っ込んでくる鳥型───ハルピュイアの姿が見えた。


「やっぱりアレかぁ!!」


『スルーズ2、行ったわよ!?』


『見えましたぁ!!!』


 うわぁ、と叫びながら萌愛機の持つライフルが放たれた。


          ***


「端子レールガン応戦!!」


「端子レールガンCIWS、左舷全機照準!

 斉射!!」


 マーシアの操作で、ガラティーン左舷側の本来はミサイル迎撃用の武器が火を噴く。


 対空砲でもあるそれを、敵の新型───キャバリエは華麗に避けて行き、一気に左舷側に近づく。


「射程より内側に!?」


「まずい……!!」


 外部カメラに映し出されたキャバリエが手をかざすと、背部から飛び出したドローンがシースルーウェポンを向ける。


 そして…………




 バシュゥゥゥゥゥ!!!!





          ***

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