第17話 Knucklehead

Knucklehead とは1936年にHarley Davidson が初めて販売したOHVのモデルである。この話を読んでいる人でバイクについて全く知らないという人はいないだろうからOHV については説明しないが、Knucklehead というのは今に至るHarley Davidson のイメージを形作ったと言って良いモデルだ。


店長が何枚かの写真を僕に見せた。1947年のFLで色は赤だった。1948年に次のモデルPanhead が発表されているので、最終型ということになる。


店長とメカニックの話によると、かねがねShovelhead だけではなくKnucklehead やPanhead も扱いたいと考えていて、今回素晴らしいコンディションのKnucklehead が見つかった。ぜひ仕入れたいのだが高価なので店の在庫車として購入することはできず、店のお客さんで興味がありそうな人を当たっているいうことだった。


輸入代行という形になるので店としては手数料だけもらえればいいし、整備も責任を持ってする。もしLowrider を売却するなら、そちらも頑張るという話だった。


ただコンディションの良い車両だけに引くて数多で先方にそんなに待ってもらうことはできない。できれば1週間以内に決めてほしいとのこと。


うーん。僕は悩んだ。Lowrider に何の不満もなかったし、Knucklehead に興味がない訳ではなかったが、時代的にあまりに旧いし、金額も比較にならない位、高かった。はっきり言えば異次元の存在だった。


では何故悩むのか? そのFLは見た感じほぼオリジナルコンディションでしかもoriginal paint だったのである。元は鮮やかな赤であっただろうが、すっかり日焼けして煉瓦色になっていた、その塗装は1947年当時のままだった。車両をレストアする時、傷んだ外装は真っ先にリペイントされるのが常で、アメリカは特にその傾向が強いように思う。


店の提示した金額は、この機会を逃したらもう二度とこのコンディションのKnucklehead を購入することはできないだろうという額だった。Lowrider がいい値段で売れれば残金はどうにかなるという額でもあった。


結論が出ないことをいつまでも悩んでも仕方ない。僕は流れに身を任せてみることにした。


僕は、もし購入するならLowrider を手放さざるを得ないが、すぐに買い手が見つかるのか? 尋ねた。店の話によると僕のLowrider を狙っていて、売りに出たら声をかけてくれという客が何人かいる。その人達に店から連絡するという。


僕はとりあえず店にLowrider を預けて、駅までクルマで送ってもらい電車で帰った。


3日後、店から電話があった。


「Lowrider 決まりました。残金の振込をお願いします。」


僕は後に引けなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る