第14話 Lowrider

1982 Harley Davidson FXS Lowrider


Harley Davidson のFX系のバイクは、当時人気のあった英国や日本のバイクに対抗して、いわゆるツアラーのFL 系にSportster のXL系のフロント周りを組み合わせて、軽快な走りを狙って1971年から発売されたシリーズである。


中でもLowriderは1977年にやはり当時人気があったカスタムのスタイルを取り入れたモデルで、その名の通り一文字のバーハンドルで低いスタイルを持ったファクトリーメイドのカスタムバイクという位置付けだった。


最もこの低くて遠いハンドルポジションはカッコは良かったものの、前傾姿勢がきついせいか、あまり評判が良くなかったらしく、そのうちアップハンドルに変更されている。


僕が気に入った、そのLowrider は赤と黒のツートーンのタンクとフェンダーを付けたアップハンドルのバイクだった。とりあえず入荷したら一番に見せてもらうことにして仮押さえさせてもらった。


数ヶ月後、Lowrider が入荷したと連絡があって、すぐ僕は店に見に行った。写真通りのLowrider はぱっと見オリジナルでないのは、SUのエアクリーナーカバーと社外のシーシーバー(タンデムシートの背もたれになるアクセサリー)だけだった。エンジンもすぐかかって何の異音もなく規則正しい鼓動を刻んだ。


僕はその場で購入を決めた。金額は当時現行のLowrider の新車と同じ位だったと記憶している。だが、現行のモデルと比較して悩むことはなかった。


このLowrider は本当に良かった。アイドリングの時の三拍子を刻む、心臓のようなエンジンの鼓動。ツアラーのFLHとはまた違ったスリムなスタイル、軽快な走り。


XL系のフロント周りと組み合わされた車体は、あまりバランスが良くなくて低速でハンドルが切れ込むような挙動があったが、別に怖いという程でもなかった。


もし、僕が今Harleyに乗ろうと思って、このバイクを手に入れたとしたら多分満足して、ずっとこのLowrider に乗っていただろう。それくらい気に入っていた。


コンディションも良く、出先で動かなくなったり調子が悪くなったりすることもなかった。別にそれは店の目利きが良かった訳ではなく、ましてや僕の選択が良かった訳でもない。おそらくは全くの偶然だった。


今思えば、それはBeginner’s luck かHappy accident というものだった。当時の僕はその幸運に気付かなかった。


ところが、このLowrider を更に完調にしようとして整備に強い店を探し始めたことで、僕のHarley Lifeは思わぬ方向に向かうことになる。



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