第13話 Shovelhead

僕が初めて買ったバイクの旧車はHarley Davidson である。当時、同社のSportster 883 に乗っていた僕は、ある時読んでいたClub Harley という雑誌で、Shovelhead の特集を見た。それで、おお、Shovelhead カッコいいじゃん! となっちゃった訳だ。


正直に言うと、当時、初めて買ったHarley のSportster 883に飽きてきていたということがあった。


Shovelhead とはHarley Davidson が1966年から1985年にかけて製造していたエンジンを積んだモデルである。エンジンのロッカーアームのカバーがショベルに似ているというのが、その名前の由来らしいが少なくとも僕にはそうは見えなかった(笑)。いわゆる一般の人達がHarley と聞いて思い浮かべる大きなフロントカウルとリアパニアケースの付いたツアラーはこの時代のHarleyからだ。


その特集には、いくつかのショップが紹介されていて、僕はR246 沿いにあったお店に行った。もうなくなってしまったから名前を出してもいいだろう。American Street という店だった。なぜ、その店にしたのか? 比較的自宅から近かったということもあったが、その店は大きくて在庫が多く選択の範囲が広そうだったからである。


ところが僕の予想に反して、店にほとんど在庫のHarley はなかった。当時Shovelhead はちょっとしたバブルで仕入れれば飛ぶ様に売れるという状態だったのである。つまり雑誌の特集はそういうことだった。


僕の応対をしてくれたおしゃれな店長は、数ヶ月に次のコンテナが来るが、どんなハーレーをお探しですか? と尋ねた。


「できるだけオリジナルに近いShovelhead。」僕は答えた。


当時すでに旧車の世界に片足を突っ込み始めていた僕は、あちこちカスタムされている車両よりノーマルの車両の方が程度が良いことが多いというのを体感的に理解していた。


「そう言うお客さんも珍しいですねえ。」


店長はトランプのように次のコンテナで来るHarley の写真の束から何枚か僕の前に置いた。その中の一枚に僕は目が止まった。


このHarley が僕の15年に及ぶHarley 沼の入り口であった。

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