第9話 BMW

僕がBMWを意識したのは、ハーレーに乗り始めて大分たった頃である。ハーレーであちこちツーリングしているうちに、ツーリングバイクの二大巨頭のもう一方であるBMWに興味が出てきたのであった。


ハーレーがあったからBMWにはそんなに予算をかけられなくて、当時発売されたばかりの1100ccシリーズの新車はもちろん1世代前の1000シリーズの中古も厳しかった。


当時、BMWの往年の名車R100RSやK100RSはすっかり安くなっていた。30万円以下で走るのに支障がない物件がごろごろしていたように記憶している。


そのうちの一台に目を付けた僕は小金井公園のそばにあった旧車ショップに見に行った。お目当てのR100RSの隣に黒のネイキッドのバイクが置かれてあって、タンクのマークを見るとこれもBMWのようだった。


店長によると、1971年式のBMW R50/5という500ccのモデルだった。そのいかにもBMWという雰囲気にやられて心変わりした僕はそのR50/5を購入してしまったのであった。


BMWというと戦後の『ミュンヘナー』といわれたアールズフォークのR50やR60、R69Sと主に80年代に作られたR100RSが有名で、その間の時期のモデルである/5(スラッシュファイブ)は当時、旧車としてそんなに人気がなかった。


僕が購入したR50/5はR75/5という750ccのモデルがスタンダードで、R50/5は廉価版だ。車体は全く同じで排気量は2/3だから、かなりアンダーパワーだったね。ミッションもハイギヤードで4速ミッションの3速で60キロ位で走ると、かなりギクシャクした。


それでも静かなエンジンノイズ、空吹かしすると車体が右に傾く縦置きのエンジンクランクならではの挙動に味わいがあった。エンジンは上品なフィーリングで高速道路を淡々と巡航するのには何の不自由もなかったが、いかんせん大人し過ぎるように僕には感じられた。


ならば、現代のBMWはどうなのだろう?と興味を持って、当時セールでかなり安くなっていたR850Rというモデルを新車で購入してしまった。小説家の斎藤純氏がBMW R850Rでの紀行文を『アウトライダー』という雑誌に掲載していて、それに憧れていたこともあった。氏のBMW R850RはR1100シリーズの時のモデルだが、僕のはR1150シリーズの時のモデルである。850も廉価版という位置付けではあったが、それでも850ccあるし現行モデルだったから日本の交通事情なら充分な性能で、壊れやすいと評判のABSが付いてないのも良かった。テレレバーというフロントサスペンションとパラレバーというリアサスペンションはブレーキをかけてもノーズダイブのない独特の近未来的なフィーリングだった。


後に、R850Rを整備に出した時の代車でR100RSやK100RSにも乗ったが、4気筒エンジンを横に寝かせて搭載し、むっちりしたトルクで滑らかに走るK100RSが僕の好みだった。もっともKシリーズはボッシュのインジェクションが壊れると修理が大変(費用的に)だという噂で車両自体は安かったが、ちょっと手が出なかった。


僕は、R850Rで日帰りのツーリングを繰り返した。BMWでのツーリングはハーレーに較べて、はるかに疲労が少なかった。まあ、それは分かる。BMWと国産のビッグバイクにも乗る仲間もいたが、やはりBMWの方が疲れないと言っていた。それが何故なのかは、うまく説明できない。


ところが程なく僕はBMWでの高速道路をメインにしたツーリングに飽きた。高速道路は単調で、ずっと走るのが苦痛に感じるようになった。当時はETCはまだ普及していなかったので、料金所のたびにタンクバッグから通行券と財布を出すのも煩わしかった。そして一般道メインの日帰りツーリングなら、もうちょっと取り回しのいい小型のバイクで走るのが僕の好みだったのである。


そんな訳で僕とBMWの付き合いは数年で終わった。今にして新旧二台のBMWに乗って思うに、BMWはいいバイクだが目的のために乗るバイク、高速道路や長距離ツーリングに行くための一番良い道具だったのではないかと僕は思っている。

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