第3話クレア男爵令嬢視点

 こんな早く、表立って動くとは思いませんでした。

 さてどうすべきでしょうか?

 悪名高いエミリーなら、堂々と呼び出して私を殺し、地位を笠に全てを闇に葬る事もやりかねません。

 ですが、下手な断り方をしても、難癖をつけて家を取り潰そうとするでしょう。


「御使者殿には申し訳ありませんが、クレアは婚約破棄をされたばかりで、傷心が癒えておりません。

 王女殿下にはその旨お伝えいただき、お断りいただきたい」


 レイラが上手く断ってくれました。

 硬軟とり混ぜた対応で、多くの士族令嬢を護って来たレイラです。

 今回も上手く断ってくれたと思うのですが、問題は王女殿下です。

 我儘勝手な方ですから、常識的な対応をして下さるかどうか……


「ならん。

 王女殿下の思し召しだ。

 それを断る事は許されぬ。

 今直ぐ着いてまいれ」


 御使者殿は引いてくれません。

 確かに子爵令嬢だったはず。

 最下級貴族ですから、ここで使者の役目を果たせなければ、王女にどのような仕打ちを受けるか分かりません。

 なにがなんでも役目を果たそうと必死です。

 ちょっと可哀想になります。


「それは随分と我儘勝手。

 王女殿下らしい事でございますが、昔のように士族や平民を嬲り殺しにしようと言うのなら、腕にかけて止めさせていただきますよ」

 

 今度はカルロが対応してくれました。

 御使者殿も無意識に後ろに下がっています。

 カルロの武勇は学園内に鳴り響いています。

 特に貴族家が雇った暗殺者を十度まで返り討ちにして、最後には暗殺者組合まで壊滅させ、暗殺依頼をしたドルトン公爵家を取り潰しにまで追いこんでいます。


 単に武芸だけではなく、寝技も完璧です。

 父の情報網を駆使して、ドルトン公爵家と敵対するミゲル侯爵家の秘密を探り出し、その情報を公開しないという約束で、ドルトン公爵家を追い詰めるのを手伝ってもらったのです。


 その事は学園内の全員が知っています。

 さすがに王女殿下を修道院に送ることは難しいですが、他の貴族なら例え相手が公爵家でも、父の情報網とカルロの武芸で叩き潰す事は可能でしょう。

 カルロは男爵公子でしかありませんが、正式な手続きを踏めば、相手が王族でない限り、決闘を申し込む事ができます。

 カルロの投げつける白手袋を避けられる貴族公子など、この学園には一人もいません。


「ですが御使者殿、貴方も手ぶらでは帰れますまい。

 自分の命ばかりか、家の浮沈までかかっているでしょう。

 クレア一人をやるわけにはいきませんが、我ら一同で王女殿下の御尊顔を拝謁させていただきます」


 カルロにはこう言う優しさと強かさがあります。

 子爵令嬢を助けると同時に、恩も売っているのです。

 この後どう王女をさばいてくれるのでしょう?


 


 

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