第2話 船長ロドリーゴ、頭を抱える

 マーサは、自分のキューブを抱えて会議室へ挑んだ。どうしてもこれだけは、船長に見てもらわなければならない。これがうまく働いてくれなければ、商売の雲行きが悪化するばかりなのは明白だった。

 会議室へ急ぐ廊下に、ふよふよと別のキューブが浮いている。その下に付着している黄色のスライムに、マーサは声をかけた。

「ジェイ、あなたもなの?」

「マーサもか。こんなキューブじゃ、危なくて仕事にならん。」

「あなたのジューサーって、確かM2189のフルーツ専用じゃなかった?あの岩みたいにごつごつしたやつ。」

「そうさ。そろそろ地球製のが欲しいよ。」

「わかるわ。私のも替えてほしいわ。もう地球人のイメージサンプルがお粗末すぎるし、調子がよくないの。」

 ロドリーゴにとって、今夜のミーティングは悩みのタネだった。考えただけで、胃の下の脳が痛くなる。どうせ言われることは決まっているのだが、クルーの意欲を維持するためにと、皆で決めたことだ。

「船長、わかるでしょ。このキューブを見て。」

マーサが触手を伸ばし、キューブをぽんと叩く。途端に、ぴゅん、ぴゅん、とマーサの姿が崩れる。地球人の画像イメージをうまくキャプチャできず、古いビデオテーオプのように不安定な挙動を繰り返すのだった。再び触手に叩かれると、やっと動作は止まった。

「これじゃお客の前に出られないわ。どうしても新しいものが必要よ。」

「あー、そうだな。もう試してみたか、修理キットは。」

「とっくの昔にね。騙し騙し使ってきたけど、もう限界よ。」

 次はジェイの番だった。

「船長、頼むぜ。地球製のが必要だよ。知ってるか、ニホンという国の製品が、良いのが出てるんだ。」

「分かった。それはいくらになりそうだ?」

「1,000$くらいだな。それと、スーツの在庫も欲しい。」

答えながら、ジェイは察しがついていた。ロドリーゴから色よい返事はもらえなさそうだ、と。


財政難。それが「Empire」を襲う悩みの種だった。この惑星ほしでは、先立つものがなければ何もできない。それは、彼らが宇宙の勇敢なクルーだったときには、無縁の概念だった。

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