畑の番人

 山を越え、いくつかの街を越え、ロボットは南へ南へと進んでいきます。疲れを知らない体のロボットは、けして休まず歩みを止めませんでした。

 やがてロボットは、大きな畑に辿り着きました。心なしか、ここだけは雪が薄いように見えます。


「おや。」


 ふと、畑に動くものを見つけてロボットは立ち止まりました。それは、麦わら帽子を被った大柄なロボットでした。


「こんにちは。」


 ロボットが声をかけると、麦わらのロボットは振り返り手を上げました。そしてロボットの方に近付いてきます。


「やぁ、こんにちは。誰かに会うのは久しぶりだね。」

「何をしてるんですか?」

「もちろん、畑仕事だよ。」


 そう言った麦わらのロボットの手には、錆の浮いたクワが握られていました。麦わらのロボットが大柄なので、本当の大きさより小さく見えます。


「私はこの畑でご主人様と花を育て、それを売って暮らしていたんだ。」

「ご主人様はどこに?」

「他の人間達と一緒に南へ行ってしまった。私は、ご主人様が帰るまで花の世話を任されたんだ。」


 そう言われて、ロボットは改めて周りを見渡します。けれどもあるのは雪と土ばかりで、花は一つもありません。


「この変な雪が降り始めてから、花は枯れ種も全く芽を出さなくなってしまった。だからせめていつ雪が止んでもいいように、毎日こうして畑を耕しているんだ。ご主人様が戻ってきた時に悲しまないようにね。」

「この雪が何なのか、あなたはご存知ですか?」

「解らない。けど、大きなキノコのような雲があちこちから上がってから降り始めたのは覚えている。」


 またキノコ雲だ、とそれを聞いてロボットは思いました。一体、自分が眠っている間に世界に何があったのだろう。ロボットは、改めてそれが気になりました。


「君も南へ行くのかい?」

「はい。会いたい子がいるんです。泣き虫で、可愛い女の子です。」

「そうか。ならこれを持っていってはくれないかい。」


 そう言って麦わらのロボットが差し出したのは、小さな袋でした。ロボットが袋を受け取り中を開くと、何かの種がいくつか入っています。


「これは?」

「花の種だよ。もしどこかにこの雪が降っていない場所があったら、そこに植えて欲しいんだ。」

「解りました。」


 麦わらのロボットの言葉に、ロボットは大きく頷きました。そして、かよちゃんも花が好きだった事を思い出します。

かよちゃんに会えたら、二人でこの花の種を植えよう。そう思いました。


「さて、私はそろそろ仕事に戻るよ。何せこの雪は全然止まないから、休まず耕さないとすぐに雪だらけになってしまう。」

「早く、この雪が止むといいですね。」

「全くだ。それじゃあ、気を付けて。」


 最後にそう言うと、麦わらのロボットは畑の中央に戻っていきました。そしてまた、畑を耕し始めます。

 かよちゃんに会いたい理由がまた一つ増えた。そう思いながら、ロボットはまた歩き始めたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る