山小屋の鳥

 街を出たロボットは、コンパスに従って南へ南へ進んでいきます。辺りには相変わらずおかしな雪が降り積もり、道路も何も見えません。

 けれどもこの先にかよちゃんがいるんだ。そう信じているロボットはけして歩みを止めませんでした。


 やがてロボットは、山に辿り着きました。雪のせいでしょうか、立ち並ぶ木々はすっかりと枯れて見る影もありません。

 それを見てロボットは、少し悲しくなりました。かよちゃんは緑が好きな子だったから、こんな景色を見たらきっと寂しがるだろうな。そう思ったからです。

 坂道をえっちらおっちら進んでいると、不意に、鳥の鳴き声が聞こえてきました。最初は気のせいかと思いましたが、やはり声が聞こえます。


「どこかに鳥がいるのかな。」


 ロボットは少しだけ寄り道して、声の主を探す事にしました。目覚めてからずっと生き物を見ていないロボットは、生き物に会ってみたかったのです。


 声を頼りに、森に入り枯れ木を掻き分けます。どこか物悲しげなその声は、何だかロボットを呼んでいるようにも聞こえました。

 そうして歩いていくと不意に視界が開け、木のない場所に出ました。中央には、小さな小屋がぽつんと佇んでいます。


「誰か住んでいるのかな。」


 そう思ってぐるぐると辺りを見て回りますが、人の気配はしません。代わりに、中からひっきりなしに鳥の声が聞こえてきます。


「あのう、すみません。」


 意を決して、ロボットは入口の扉をノックしてみました。けれどもやはり、鳥の鳴き声以外は聞こえません。


「おや。」


 その時ロボットは、扉に鍵がかかっていない事に気が付きました。人の家に勝手に入るのはほんの少し罪悪感がありましたが、どうしても鳴き声が気になるロボットは、恐る恐る中に入る事にしたのでした。


 小屋の中は、大変質素でした。簡単な寝床といろりがあるだけで、水道も冷蔵庫も何も置いてありません。


「こんな所に、誰が住むのだろう。」

「ここは山に登りに来た人が泊まる小屋だよ。」

「わっ。」


 突然聞こえてきた声に、ロボットは驚いてしまいました。慌てて辺りを見回しますが、誰もいません。


「ここだよ、ここ。入口の横を見てごらん。」


 言われた通りの場所を見ると、扉の横の鳥かごに小さな鳥のロボットがいるのが見えました。どうやら、この鳥ロボットが話しかけてきたようです。


「ああ、びっくりした。あの鳥の鳴き声は君かい?」

「そうだよ。山に来た人をここに案内する為に、僕はずっとここで鳴いているのさ。そしてここで休んでもらうんだ。」

「ははあ、ここは休憩所だったのか。道理で人が住めそうもなかった筈だ。」


 ロボットは納得したようにぽん、と手を打ちました。そんなロボットに、鳥ロボットは更に語りかけます。


「ところで旅人さん、お願いがあるんだ。聞いてくれるかい。」

「何だい?」

「僕をこの鳥かごから外に出してくれないかい。」

「どうして。」

「鳥達を探しに行きたいんだ。」


 そう言った鳥ロボットの様子は、とても寂しそうでした。ロボットはそのまま、話に耳を傾けます。


「僕は毎日、この辺りを訪れる鳥達と話をするのを楽しみにしていたんだ。けれども、ある時から何故か鳥達がぱったりと来なくなってしまってね。だから探しに行きたいんだよ。」


 この鳥ロボットはかよちゃんを探す自分と同じだ、とロボットは思いました。そして大きく頷き、鳥かごの扉を開け放ちました。


「さぁ、これで外に出られるよ。」

「ありがとう、旅人さん。このご恩はずっと忘れないよ。またどこかで会えたらいいね。」

「ああ、気を付けるんだよ。」

「それじゃあ。」


 鳥ロボットは嬉しそうに翼を羽ばたかせると、入口から外に飛び出していきました。ロボットも、嬉しい気持ちになりながらそれを見送ります。

 自分も頑張ってかよちゃんを探そう。ロボットはそう決意を新たにしたのでした。

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