ダジャレのような言語感覚が光る冒険小説

 十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない、という有名な一節があるのですが、あの感覚で異世界と名乗っている作品です。もちろん科学ではなく、錬金術と妖術です。でもこの二つを高度化させると、科学と一緒なんでしょうね。そもそも我々の使っている科学だって、錬金術が土台になっているわけですし。

 
 さて作品内容なのですが、もしかしたら一種の冒険小説なのかもしれません。主人公は異なる世界へ旅立つ前から鍛え抜かれた格闘家だったので、異なる世界に到着してからも、自分の力を試すぐらいの感覚です。悲壮感もなければ緊迫感もありません。自分の武術と最新の科学を組み合わせた武者修行みたいな感じで生活していきます。

 しかもお色気シーンがナチュラルに挟み込まれます。ただのお色気シーンではなく、この世界における力の法則性を補完するための儀式みたいなものでした。主人公は物語上、人間というよりも召喚獣、つまり獣として呼びこまれたわけでして、ある意味で納得の流れですね。ほら英雄色を好むっていうじゃないですか。

 そんな筋肉で常識を破壊するような物語なのですが、作者の天性の言語感覚によって構築してあります。脳内に一風変わった辞書を搭載しているんじゃないでしょうか。

 このレビューを書いた時点だと、まだ物語の基幹がすべて明かされたわけではないため、いくつかの謎が残っています。

 この生命力あふれた主人公が、ダジャレのような命名パターンで構築された世界をどう生き抜いて、どう謎と向き合うのかを見届けるのは、このレビューを読んだあなたかもしれません。