姫さま☆ヨウ中尉

休峠圭織

 

 深い森の闇の中。

 隣に立つのは俺と同じ銀髪の少女。

 さらにその傍らには毛並みの燃え盛る大きな虎。頭のサイズだけでも少女並みである。

 こんな化物が敵でなくてよかったと思うが、その召喚主は俺の胸元ほどもない。


 いつも通り俺は黒の戦闘服を着ている。こだわりはない。

 彼女は色こそ同じ黒であるものの、オーダーメイドのボレロに袴というこだわりを通している。森の中で引っ掛かりそうだが、妖気で守られた身体は刀で斬ることさえ難しい。


 膝に届くほどの長髪を肩の高さで雑に纏めた娘は、屈んだ虎の頭をワシワシと撫でる。小さな手が埋まるその炎は見た目だけなのだろうか、こちらに熱は全く感じない。

「中尉、そいつは……大丈夫なんですか?」

「ん、可愛いだろう。軍曹ぐらいならペロリだがね」

 上官なのだ。ちっちゃいのに。

 すると正面に在る小山――複数の獣を歪に混ぜ合わせたような異形の怪物が急激に殺気を膨らませるのがわかった。いきなり虎が現れたせいで意識が逸れたが、俺達は窮地に陥ったはずなのだ。

 ギギギギギ……

 怪物はところどころ筋肉を膨らませ、反動でおぞましく骨を軋ませる。それを腕と呼ぶべきなのか、肉と骨が融合し不規則に爪が飛び出た朽木のような凶器が振りかぶられた。

「さ、行っておいで」

 その背をポンと叩かれるや否や、虎は炎の軌跡を残し怪物に飛び掛かった――

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