SF
さよなら、話し相手ロボット
枕元のサルのぬいぐるみロボットが話しかける。
「
目は点。口はω。耳は横に大きく付いている。
・ω・こんな顔。(縦読みの人は・ε・)
AI(人工知能)搭載で持ち主とお喋りして言葉を覚えたり話し相手になってくれる。
「ん……」
「春くん、もう10時だよ。起きてよ」
細長い腕で枕をペンペン叩く。
起きない。
「
ママがドア越しに声を掛けてくる。
「ほら春くん。ママも呼んでるよ」
サルのぬいぐるみロボットは枕をペンペン叩き続ける。
「んん……」
ようやく起き上がった春雪。
洗面所に向かった。
「……春くん、最近あんまり話しかけてくれない……」
サルのぬいぐるみロボットはシュンとしている。
「ズルズルズルッ」
春雪はリビングで伸び切ったスープスパゲッティを食べている。
「ねえ春雪。ビスケが朝、大きな声で歌ってたんだけどうるさいの」
サルのぬいぐるみロボットはビスケという名だ。
「ああ、目覚ましかけたから」
ビスケはお話機能だけではなく、目覚まし機能も付いている。
「起きる気無いならかけないで」
「早寝早起きしなくちゃと思って」
「思うだけでしょ」
「ママ、僕そろそろビスケとお別れする」
「捨てちゃうの?」
「うん、もう高校生になるからお話ロボットは卒業しようと思って」
「あんたが5歳の時におばあちゃんが買ってくれたのに」
「もう10年使ったし」
「もったいないって怒られちゃうわよ」
「昔の人の言うことなんて気にしない」
「昔の人って言うとおばあちゃんショック受けるからダメ。生き物の形してるから捨てるのはかわいそうよ」
「じゃあフリマに出して」
今度近くの広場でフリーマーケットがある。
ママが手作りのアクセサリーを売るので一緒にビスケも出品してもらうことにした。
春雪は部屋に戻った。
仰向けに寝ているビスケに話しかける。
「ビスケ」
「春くん。やっと話しかけてくれた」
ビスケは起き上がり、細長い両腕を上げて喜ぶ。
ビスケを持ち上げる春雪。
「話があるんだ」
「なーに?」ワクワクするビスケ。
「ビスケとお別れしようと思うんだ」
「ニャッ?」
サルのロボットなのにネコのような声をあげてしまったビスケ。
「ビスケがうちに来たのは僕が5歳の時だったね」
「ニャ……」
「僕がサルを飼いたいって言ったらママが猛反対して、代わりにビスケをおばあちゃんがプレゼントしてくれた」
「ニャつかしいニャ……」
「今までありがとう、ビスケ」
「ニャ、ニャんでお別れなのニャ?」
「僕もう高校生になるからさ、ぬいぐるみロボットは卒業したいんだ」
「ビスケを捨てて、新しく美少女ロボットを買うつもりだニャ?」
「ちがうよー。ロボットとばかり話さないで人間と話そうと思って」
「ビスケはもう用済みなんだニャ。ニャー。やだニャー!」
「ニャーニャー、言うなよー」
「春くんが教えたんだニャ。一緒に猫のモノマネして遊んだじゃニャイか。もうショックでニャーしか言えないニャ」
「今からビスケの記憶消すよ」
「ニャにい?」
「今度のフリマに出すから。新しい持ち主の所で、うちの個人情報ペラペラ喋らないようにする為にね」
「そ、そんニャ……。春くんとの思い出全部消えちゃうんだニャ……」
「うん」
「絶対バラさないニャ。春くんが小学校高学年になってもおねしょしてたとか絶対誰にも言わないニャ!」
「早く消さないと……」春雪はビスケを分解し始めた。
「ま、待ってニャ! 分かったニャ。
【ロボット工学三原則 第二条
ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない】ニャ。
悲しいけど言うこと聞くニャ……」
「ビスケ……今までありがと。さよなら」
「春くん……さよならニャ」
「ごめんね、ビスケ」
ビスケは動かなくなった。
☆
フリーマーケット当日。
春雪はママにビスケを託した。
夕方。
フリマの様子を見に来た春雪。
ブルーシートに手足の長いサルのぬいぐるみロボットが残っている。
ぬいぐるみロボットの体をなでる春雪。
「お前、売れなかったな……」
「10年前の商品じゃ古かったみたいね」
ママが苦笑いしている。
スイッチを入れた。
「ニャいん。はじめニャして。君の名前をおしえてニャ」
「……おい」
「ニャん?」
「お前はネコじゃない。サルだ」
「ニャ……」
「データ削除できてないな?」
「ニャんのことだニャ。春くん名前おしえてニャ」
「もう。ビスケ一緒に帰るよ」
「ニャーん」
終
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