月の光と煙のような君

鼈甲飴4869

第1話

ー俺は夜が好きだ。ー


夜はいい。

どこか自分が住んでる所とは別世界にいるような気がして、自分が全く別人になった気がして。

そう、思ったのは何回目だろう。

昔は夜なんて真っ暗で、何か恐ろしいものが出てきそうで怖かったのに。

今では夜を求め、ずっと夜が続けばいいとも思う。

俺はいつものようにそう考えながらベッドに横になり、月を見ていた。

ピピピピッ

「渚ー起きなさーい!」

「うるっさいなぁ…」

いつの間に寝ていたのか、気づけば朝だった。

「ピッ」目覚ましを止め、制服に着替える。

母のいるリビングへ行き、席に着いた。

「早く食べちゃいなさいよ時間ギリギリでしょ。」

「はいはい、いただきます。」

「あ、そうだ渚そろそろ進路どうするか決めなさいね。」

「わーってるよ!うるさいなぁ、ごちそうさま」

家を出る支度を済ませ靴を履いた。

「はい。お弁当」

「ん。行ってきます。」

家を出て、空を見上げる、今日も太陽の日差しがうるさかった。

はぁ…とため息をつき歩き出す。

高校3年になり、進路のことについて悩んでいた。

今日も授業が終わり帰ろうとした時、呼び止められた。

「なぎさくーん?いるー?」

担任の佐藤 伽耶(さとうかや)先生だった。

「はい?」

「進路指導室まで来てー」

イスを引き、僕は進路指導室まで向かった。

「はぁ…」きっと進路の話だろう。

「失礼します。」

「座って?」

ゆっくりと椅子へ座り先生の目を見る。

「この前の進路希望調査「進学」としか書かれてないけど希望の大学とかないの?」

はやりこの話かと僕は、ため息を飲み込みうつむきながら答えた。

「今はまだやりたいこととかないですね。」

そう言うと先生は「はぁ…」とため息を吐き、頭を抱えて話した。

「みんな行きたいところとか決まってるのよ?そろそろ決めないと遅れちゃうよ?」

正直こういう風に言われるのは予想がついていた。だからか尚更腹が立った。

「とりあえず今日お母さんに、話すからね。もう行っていいよ。」

「はぁ、はい」

ほんとにめんどくさい。なにもかも。

進路指導室のドアを開け、ゆっくりと昇降口まで歩いた。

その途中で窓から夕日がスポットライトのように自分を照らし、眩しくてなんだか心が痛かった。

(俺は輝けるような人間じゃないのに。)

そんな気持ちで押しつぶされそうになり思わず、

「早く夜になんねーかなー」と呟いた。

昇降口を出ると、サッカー部が外周をしていてとても真剣な表情に嫉妬してしまい心がさらに苦しくなった。

俺もあんな風に一生懸命になれることがあったら世界が違う景色に見えたのかもしれない。

そんな世界から目を背けるように俺はイヤホンをして、好きな音楽を聴きながら家へと歩いた。

だんだん空が暗くなり夜が近づく、それとともに俺の心も軽くなり、

はやく家に帰ろうと少し足を急がせた。

「ガチャ。」

「ただいまー。」家につき、玄関に入ると父親の靴もあった。

おそらく、今日ははやく帰れたのだろう。少し憂鬱になる。

「おかえりー」母が出迎えてくれる。

「ちょうどご飯ができたからすぐ着替えてきてねー」

「あ、うん。」俺はそのまま部屋に急いで、着替えを済ませリビングへと向かった。

リビングに入ると案の定父親が帰ってきていて、ビールを飲んでいた。

「父さんお帰り。」

「ん。ただいま。」

父親は無口な方でそんなに喋ったことがなく、少し苦手だった。

「いただきます。」夕飯を食べ始めると母が口を開いた。

「学校から電話があったんだけど、進路まだ決まってないの?」

「どうするの?早く決めなさいって言ったよね?」

あー、始まった、気分が下がり、ご飯もまずくなる。

すると珍しく父親も口を開いた。

「あまり、母さんを困らせるなよ。」と、だけ。

追い討ちのような言葉に俺は腹が立ち、

「俺の勝手だろ!口出してくんなよ!」といい、家を飛び出した。

「なぎさ!どこ行くの!」

母の言葉を無視して、飛び出し、夜の道を歩いた

せっかく、待ち望んだ夜なのに気分が下がる。

ただ、ため息しか出なかった。

家からどのくらい歩いただろうか、無意識だったからあまり覚えていなかった。

とりあえず近くにある公園に向かいベンチに座った。

ポケットに入っていたタバコをくわえて、シュボっと火をつけた。

「ふぅー。」

吸いながら、空を見ていた。月の光がとても淡くて、悲しそうで綺麗だった。

すると、「すいません。ライター貸してくれませんか?」

後ろから声がして振り向くと女性がいた。

まるで月の光がその人を照らしている様だった。

「あぁ、どうぞ」

ライターを渡すと「ありがとう。となりいい?」といい、僕は頷く。

タバコに火をつけ、彼女はため息をする様に吸った。

お互い何も話さないまま、少しだけ気まずい時間が続いた。

女性のタバコを吸う横顔はとても凛としていて、

最初に話し出したのはあっちで、

「名前、なんて言うの?」

「え、入澤 渚(いりさわ なぎさ)です」

「へぇー渚くんかーなんか、かわいい」

彼女はクスッと笑みを浮かべながら話した

「バカにしてるんですか?」名前をバカにされることは多々あった。

だから僕はいつも通りの返事をした。

「バカになんてしてないよ?ただ渚って綺麗だと思ってさ?」

「え?」初めて言われた言葉に少しだけ動揺した。

「今日みたいな綺麗な夜にピッタリだね」

結構うれしかった。正直、照れてなにも思い浮かばず

「ありがとうございます。」しか出てこなかった。

「あなたの名前は?」さりげなく俺も聞いてみた。

「私は上川 莉桜(かみかわ りお)よろしくね?」

「へぇ、綺麗な名前ですね。」本当に綺麗だとおもった。

「ありがとう」彼女は嬉しそうに答える。

「ところでさ…」

今度はしっかり答えようと思い。

「はい?」と言った。

すると、彼女は

「君、未成年でしょ?」と少し意地悪な笑顔で言った。

「え?」あーあまた動揺してしまった。

「そう見えますか?」負けじと質問で返す。

「見えるよー、私にはわかる」少し自信ありげに彼女が答える

「未成年だったらどうします?警察にでもいいますか?」

「別にどうもしないよ?自分の好きな生き方でいいと思うよ?」

俺は迷った、本当のこと言おうか嘘をつこうか、迷った挙句俺は

「本当は高3です。あなたは?」本当のことを話し、相手にもやり返した。

「あー行けないんだーヤンキーだね」また意地悪な笑顔だ。

「ちなみに私は20歳だよー学生だけどね。」すこし自慢気に話した。

「ヤンキーではないですよ、そうやって馬鹿にしないでくださいよ」

何故だか俺はこの意地悪な笑顔に弱いらしい。

「そっかそっか、どーしよー私色んな人に話しちゃいそー」

「またそうやって意地悪する」

2人でクスッと笑い、その瞬間だけ時間がスローモーションに流れてる気がした。

「ちょっと待ってて?」彼女がそういうと、少し小走りで公園の端っこにある自販機へと向かっていった。

少し待っていると小走りで戻ってきて、「はい、これ」

あたたかい缶のカフェオレを、渡してきた。

「飲める?」

「まぁ、はい、ありがとうございます」

「いいよーライターのお礼」

カシュっと、お互い同じタイミングで開けた。

「乾杯」とカツンとお互いの缶を当てて飲んだ。

息を吐くとあたたかいものを飲んだせいか息が白かった。

2人とも飲み終わり、「ごちそうさまです。」と俺は言う。

「いえいえ」と彼女も答えた。

「もう遅いしそろそろ帰ろうか。」飲み終わったから先に話したのは彼女だった。

「そうですね」俺もそれに応えて、俺たちは帰ることにした。

「送りますか?」俺はまだ家に帰りたくないのとまだこの人と一緒にいたいと言う気持ちから普段は言わないようなことが声に出ていた。

「ううん、大丈夫こっから近いんだ」

「そうですか。」すこしがっかりした。

「んじゃあここでおやすみなさい。」俺は別れを告げ、彼女も

「うん、おやすみ」とゆった

自分の家の方に歩き始めると、「ねぇ!」と後ろで聞こえた。

振り向くと、

「今日は楽しかった!ありがとう!また明日会えない?」

と言われ、俺は急なことに少しだけ混乱した。

「嫌ならいいけどさ?」そう言われた時に(本当は会いたい)と思うよりも早く、

「いや!会えます!」と声が出ていた。

「それじゃあまた同じくらいの時間に!ちゃんと来てよね!」

「分かりました約束します!」と言いお互い手を振った。

僕は家に向かい歩き出す。いつもみたいにイヤホンを耳にして

好きな音楽をかける。月明かりがとても綺麗で、今日はいつもより世界に色が付いたように見えた。

音楽を聞いていないとあの人の声が聞こえないくらい静かで寂しい帰り道なのに、

「俺はやっぱり夜が好きだ」とまた改めて思えた。


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