11/30真っ白い「ウェディングドレス」

 ウェディングドレスなんて絶対に着たくなかった。

 昔から私は白が嫌いだった。どうしても汚れが目立ってしまうし、何だか白に嫌われているような気がしたから。白は私が着る色ではない。他にもっと相応しい人がいる。教室の中心で花開く、誰もに愛される少女のためにある色のような気がしていたから。

 それに白は何色にも染まってしまう。そのくせ白に戻すのは容易ではない。それよりは、何にも染まらずにいる黒の方が好きだった。

 黒にはあらゆる色が混じっているという。だからこそ誰が身につけても赦される。私は白が嫌いで、黒はとても好きだった。

 私は黒いものばかり選んできた。それなのに今、真っ白なドレスを目の前に広げられている。

 和装にしたところで結局は白無垢を着ることになる。これから新しい色に染まっていくということを主張する。でも私は何にも染まらずにいたい。結婚したって変わらない私のままでいたいのだ。

「ウェディングドレスって、白じゃなきゃダメですか?」

 私が呆然としていると、隣に座っていた祐志が言った。

「最近だと、結婚式の形も色々ですから、他の色のドレスにする方もいますが――」

「彼女、黒が似合うんですよ。初めて会ったとき、本当に真っ黒な格好をしてて、それがすごくカッコ良かったんです」

「祐志……」

「いやホント、魔女みたいだったもん」

 普通はそれは褒め言葉ではない。けれどオカルトが大好きな祐志にとっては、魔女は憧れの存在らしい。

 別に魔女になりたくて黒を着ていたわけではないのだが、祐志が喜んでくれるなら付き合ってやらないこともない。

「だから、魔女の結婚式みたいなドレスがあれば」

 ウェディングプランナーは困惑しながらも、どこかに電話をかけ始めた。でも本当に大丈夫なのだろうか。普通はウェディングドレスといえば白だ。

「黒でも大丈夫なのかな……」

「いっそ黒ミサみたいな感じにしない? そしたらピッタリだよ!」

「それはさすがにちょっと……」

 私オカルトに興味ないし。さすがにそこまでは付き合えない。けれど黒いドレスが私のウェディングドレスになるのは歓迎だ。この人を選んで良かった。少々オカルト好きが過ぎるところがあるけれど、彼のそばにいれば、別にこれから何かに染まる必要なんてないんだと思わせてくれるから。

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霜月小話 #novelber 深山瀬怜 @miyamaselen

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